パラダイムチェンジ

2006年03月04日(土) ジャーヘッド

今回も映画ネタ。見てきたのは「ジャーヘッド」
この映画を一言で言えば、「アメリカ海兵隊として行く、1991湾岸戦争
ツアー」である。

主人公スウォッフは、大学に入ることと軍隊に入る事を悩んだ挙句、
彼女を残し軍隊に入る事を選択する。
そしてここから、この映画を見ている私たちの、2時間弱の戦争体験
ツアーが始まる。

入った早々、まずは手荒い新人歓迎会が開かれ、一歩間違えば死と隣合
わせの中、泥の中をはいずり回る訓練を経験し、やがて一人前の斥侯狙
撃兵として、キリングマシーンになっていく。

そんなさなか、世界ではイラクがクエートに侵攻。戦争の気配が海兵隊
の内部でも濃くなっていく。やがて出兵。
映画「地獄の黙示録」を見て、気分を昂ぶらせていく。

飛行機に乗って、たどり着いた場所は砂漠のど真ん中。
上官からはイラクが使用するかもしれない、神経ガス、生物化学兵器の
恐怖をたっぷりと叩き込まれ、視界さえもさえぎられる毒ガスマスクを
つけたまま、摂氏45度の砂漠の中で訓練を続けていく。

TVもなく、電話さえも通じない砂漠のど真ん中では、彼女の写真を見て
マスターベーションを繰り返す位しか、やることはない。
仲間たちからは、彼女が浮気していると散々吹聴され、やがてそれが
本当なのではないか、と心の中で疑念がわいてくる。

そうして、ようやく始まった戦争。
砲弾が飛び交う戦場で、塹壕に入ることもなく、小便を漏らしながら
ただ立ち尽くすしかない自分…そして彼の戦争が始まった。
というような映画。

この映画は、主人公スウォッフが自身の体験を書いた原作を元にして
いるらしく。
だから、とても軍隊の内部がとてもリアルに描かれている。
現在もイラクに軍隊を派遣しているアメリカでは、この映画の内容の
是非を巡って、公開か製作が延期になったって話も聞いた気が。

そのくらい、実際の軍隊生活や戦争の実態が、私たちの日常生活からは
想像を絶する世界なのか、ということがよくわかると思う。
個人的には、主人公の設定とほとんど同年代ということもあって、
そのリアルさが身につまされるというか。

普通、軍隊生活と聞くと、規律によって支配された、一糸乱れぬ軍隊
行動みたいなイメージがあるけれど、そこにいる人たちは、当たり前
だけど、いろんな人がいて。
中には、個人的にはお友達になりたくないタイプとか、あんまり命を
預けたくはないタイプもいたりして。


この映画の中で特に印象的だったシーンが、3つある。
一つは、砂漠の中、斥侯(偵察)任務をしている時、砂漠の向こう側に
いきなり人影が現れたとき。
その人影が敵なのか、味方なのかわからない自分たちのパーティに緊張
が走る。
もしも、ただの民間人だったとして、英語がわからなかったら、どう
判断すればいいのか、銃を構えながら彼らは悩む。

もしもその瞬間、敵か味方かわからない相手のキャラバン隊が、ちょっ
とでもおかしな行動をしていたら、彼らは発砲したのだろう、と思うと
今でもイラクで行なわれているのかもしれない民間人への誤射は容易に
行なわれるんだろうな、と思う。

二つ目は彼らの訓練中に、メディアの取材に答える時。上官である
兵隊の一人は、アメリカは自由に発言していい国なんじゃないか、と
言うんだけど、軍曹は、お前たちに発言の自由はない、といい無難な
発言をするようにというシーン。

このシーンを見て、個人的に思ったのは、奇妙なことに空気の読めず、
全体の場を乱す発言をした、件の兵隊に対する違和感だった。
でも、本当はその方がおかしいんだよね。

それぞれの思想信条によって、自由に発言する権利はあってもおかしく
ないと思うんだけど、おそらくその場面に出くわしたら、自分ももしか
すると、全体を乱すような発言は自主規制してしまうのかもしれない、
と思ったのだ。
そしてもしかすると、それが戦争という状況の恐ろしさなのかもしれ
ないし、いわゆる従軍報道で私たちが目にしているものには、そういう
無言のバイアスがかかっていてもおかしくはないのかもしれない。

今だと、イラクに駐留している兵士たちがブログで本音を書いている
のかもしれないけれど、でもこれもちょっと前から軍部の検閲が入って
いる、なんて報道がなかったっけ。

そしてもう一つは、これから戦場に向かうという直前に、彼らは神経
ガス対策として、アスピリンを渡され、その薬を飲む代わりに、もしも
副作用があっても一切の権利を放棄しろ、という書類にサインさせられ
るシーン。

1991年の湾岸戦争当時、確かにイラク軍が神経ガスを使ってくる可能性
に関して、日本でも軍事評論家の人たちがやかましく指摘していたのは
覚えているし、スカッドミサイルがイスラエルに打ち込まれた時には、
イスラエルの国民たちが、ガスマスクをつけている、なんてニュースを
見たような気がする。

それほど、現場の人間にとっては、神経ガスに自分達が襲われるという
のは、恐怖だったのだろうと思う。

でもその一方でこの映画で描かれなかった側面として、彼ら米軍は、
劣化ウラン弾をイラク中にばらまいてきたんだよね。それはイラク戦争
でも同様で。

劣化ウラン弾に関しては、Wikipediaでも参考にしていただくとして、
米軍の兵士でも、神経ガスでやられた人間はいなくても、劣化ウラン弾
で被爆した人たちは結構いたらしいので、うまくはいえないけれど、
何となく皮肉に見えたのだ。

で、この映画を見た私の結論としては、やっぱり生身の人間にこんな
緊張を強いるような、戦闘行為は行なうべきではないし、国際問題の
解決方法に武力をなるべく選ばなくてもいい世の中になってほしいなあ
と心底思うのだ。
最近の米軍は、無人で人を殺せる兵器の開発をしている、なんて物騒な
話も聞こえてくるし。

この映画で語られている戦争自体は、時間の都合もあってか、割と
あっさりとしたものに見えるけれど、でも華々しく見えがちな戦闘行為
の裏側には、こんなにも大変なものがある、ということがよくわかる
映画だと思う。

「全ての戦争はそれぞれ違う。でも全ての戦争?戦場?はほとんど同じ
だ」というのは、映画の終盤で主人公が言う言葉である。
その言葉は、今も自衛隊が展開しているイラクや、その他の地球上の
戦場全てに重なるのかもしれない。
今、こうしている間にも、戦場の兵士たちは緊張を強いられているの
かもしれない。

全ての地球上から戦場がなくなる日が来ることを、それがどんなに困難
な事であっても祈りたい、と私は思う。


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harry [MAIL] [HOMEPAGE]

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