キッシンジャーの日々
キッシンジャー



 東京遠征−出発

夜の9時半の夜行バスに乗り、僕は東京へ向かった。




前のネエちゃんが

「座席倒してもいいですか?」

と聞いてきたので、僕は快く承諾した。


気分は高揚していて、愛読書の『鬱』を読むのにも力がこもっていた。

『フンフン♪』

最高の気分だ!!

と、そのとき!

「ギ…イイィィ」

前のネエちゃんがさらに座席を倒してきたではないか!


膝が…ああ、膝が前の席を擦るんですよ


てか、

倒し過ぎだっつうの!!

僕は心の中で憤慨した。


一回承諾した分、言い返すのもなんなので、僕は諦めて狭いシートの中、本を読み続けることにした。


しかしそこで、さらなる悲劇が僕を待ち受けていた…!




本を読み耽っている最中、

「…プ…ッン」

突如灯りが消えた。


『何?何?なんなのよ!?』


僕は、お化け屋敷に入ったパニック女性のように狼狽した。

そして、気付いた。


これはどうも、世にいう「消灯」らしい


と…


何時だよ?

…10時かよ!!


まるでガキの遠足のようだ…ふぁっく。


仕方なく僕は、薄暗い車内の空中をボーッと眺めることにしたんだ…




気付いたら寝てた。

気付いたらバスはパーキングエリアに停車していた。

でも僕は外に出られない。

たぶん運ちゃんだけの休憩だろう。

僕に分かるとすれば、カーテンの隙間から見える隣のバスと、冷たい外気にさらされた窓の冷たさぐらいだ。


嗚呼、バスという籠の中で僕は、まるで不細工な人形のように下らない拘束を強いられているのだ…


おぞましいことこのうえなく、しかしそれに抗うことはできない。


僕はこのバスと運ちゃんに5千円という金額でいつしか命を預けていた。


しばらくしてバスは再び出発した。

命を5千円で預けたという恐怖を抱きながら、僕は再び眠りへと落ちていった…




三回目の休憩だ。

足柄PAらしい。富士の麓らへん?


体を切り裂くような冷気で寝惚けた頭が醒めた。

そのリバウンドで、鈍い感じに気分が悪くなった。

腹が減っていた。

テリヤキチキンを262円で購入し、バスに戻りながら頬張った。

微妙な温さのそれは速攻で胃の中に収まった。


歩きながらハイライトを取りだし、火をつけた。

寝起きの僕にとってそれは猛烈なまでの苦痛だった。

吐気がした。

バスの前で3分の1程吸ったがすぐに投げ捨てた。


車内に戻ると、さっきのテリヤキチキンとハイライトの味が混ざりあって、さらに気分が悪くなった。


すぐにペットボトルのジュースを飲んだ。


それはバスの暖房によって、かなり温くなってしまっていた…



2002年12月25日(水)
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