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■ カオス
猿の研究室横で猫が二匹、
青カン
しているのを見た。
三毛の牝の上に覆い被さるように灰ぼちの牡が乗っかり、
いわゆる
ドギ―スタイル(この場合はキャッティースタイルとでも言おうか)
で性交していた。
牝が草叢の上にじっとして恍惚とした表情なのに対して、
牡はその行為にまさに無我夢中で、牝に食いつかんばかりの勢いだった。
その様子をまじまじと凝視した。
牝の表情と牡の真剣じみた行為の違いが面白かったのもあるが、
僕が行っているその行為もまた、
視姦よりも生々しく、狂気じみていた。
そのときだ。
牡と目が合った。
バッタリと。
こっちは煙草をくわえたまま、あっちはその触角を挿入したまま
おそらく5秒がたった。
突如、牡はその触角を牝から引き抜き、僕に混乱と戸惑いの視線を投げ掛けながら牝と距離を置いた。
牝はさっきまで感じていたのだろう。
呆けた顔をして、牡が自分の割れ目からその触角を引き抜いたことに一瞬気付かぬほど我を失っていた。
そしておもむろに僕を一瞥した次の瞬間、
それは横の建物の壁際に驚くほど素早くさっと飛び退いた。
それから何をするかと思いきや、
なんと
人間の女性が着たまま行為した後に体裁を整えために衣服の乱れを直すように、
右前肢で顔の毛並みを揃えているではないか。
しかも僕の存在とそれまでの凝視をまるで素知らぬ顔つきで!
牡はといえば、僕に対しては相変わらず戸惑いの表情を見せ、
そこにはさらに怒りめいた感情も込められ始めたのか険しさが増していたが、
牝に対してはまるでおやつをお預けされた子供のように
その性欲に対する継続欲求を露わにしていた。
それでも牝は我関せずといったように
壁際のワラの上で丸くなっている。
すでに僕の存在さえも無視し始めていた。
僕はその一連の流れをずっと見ていた。
ついに堪らず、失笑とも嘲笑ともわからぬ声無き笑みを顔に浮かべた。
その二匹の動きがほんとうに、
性交の最中を見られた人間の男女が取る動きにそっくりだったからだ。
さらに言うならば、言葉がないぶん、感情面が丸出しで表現が直接的だったのだ。
そのとき聴いていたのが
鬼束ちひろの
『月光』
だった。
イヤホンから流れ出る哀しいその曲を意識した瞬間、
その場所は荒廃した
カオス
がで満たされた。
『21世紀も始まったばかりというのにほんとうに
世も末
だ。』
僕はそう声にならない声で呟き、その場を去った。
瞼を閉じれば、今にも涙が溢れそうだった。
僕はそれをじっと堪えて、夕暮れの空の下、
ゆっくりと坂を登っていった…。
2003年01月27日(月)
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