蛇腹食堂
書人*なび太

   

  




祖父孝行
2003年08月19日(火)
盆を過ぎて尚、灰色の雲は低く空を覆い、
夏だというのに蝉の声さえろくに聞けない、
そんな日が続いているにも関わらず、
人はどうしても出かけたくなる生き物なわけで。

高速のインターチェンジから、
十数分離れたそのサービスエリアは、
まさに「家族の博覧会」といった感じで僕を迎えてくれた。

色とりどりの車の合間を縫って人々が向う先は、
その大半が”トイレット”。
子供を肩車しながら悠々と歩く父親もいれば、
真っ青になって駆けてゆく老人もいる。
それはじんわりと平和な光景で、
僕はなんだか笑わずにいられなかった。

女性用に比べれば空いてはいるものの、
用足しを待つ人でごったがえす構内。
僕もその一群に加わり、
自分の番が回ってくるのをじっと待っていたんだ。
そんな時だった。



「おじいちゃんのち○ち○、
長いねぇー!!」




その声は建物自体の反響効果も相まって、
狭い男子トイレに響き渡った。
声の主である少年は、
恐らく祖父と思われる老人の背後から、
祖父の排泄模様をじっと除きこんでいるわけで…。
被害者であるはずの老人は、
可愛い孫を叱り飛ばすこともできず、
かといって全てを出しきらなければ、
そこからは立ち去ることもできないといった風に、
実に複雑な笑顔を浮かべるばかり。
むしろ周りにいる僕らの方が笑いを堪えるのが辛いぐらいで。

しかし、少年という生き物は、
時に恐ろしいまでの残酷さを発揮する。
周囲のそんな微妙な空気を敏感に感じとった少年は、
まさに「期を得たり」といった表情を浮かべ、
哀れな祖父にとどめを刺したんだ。




「おじいちゃん、
 ○ん○んも長いけど、
 おしっこも長いんだね!!」




周りの空気が一瞬にして変な緊張を帯びたのを見届けると、
少年はダッとトイレから駆け出していき、
更に表で待っていたのであろう母親に大声で報告した。



「おじいちゃんのおしっこ
 長いッ!!」



当然ながら、少年の
「おじいちゃんのおしっこ」
を連呼する声が遠のいていく間、
男子トイレには、
なんとも言えない気まずい空気が流れたわけで…。



母さん、当面、日本は平和です。




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設計*しゑ(繊細恋愛詩)
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