紗幕の向こう側で繰り広げられるオープニングは、ロットバルトの「悪のマント(翼?)」に包まれて、一瞬の間に人間から白鳥へと早替えです。 そして苦しげに腕を羽ばたかせる後姿がもう、最高に素晴らしい。やはり白鳥といえば、羽ばたきの腕の動きですよね。(間違ってる?) ロイヤル時代のツテで頼んだ美術&衣装の方により、舞台の上にはシンプルながら幻想的な世界が作り出されていました。何というか乙女チック?ディズニーワールド? 劇場中継などで見る宮殿は、絵画的背景が多く重厚なイメージがあるのですが、今回は華奢でありながら立体的に柱や窓が装飾されて、異世界へと通り抜けできそうなセットでした。 一幕は宮殿での日常、ニ幕で王子はオデットと出会うのですが、この日の私は睡魔に襲われまして、気合を入れてもこっくりと(だから観に行くときは体調を万全にと何度も…)また、3列目で聞く生オケが良い感じの震動を与えてくれまして……。 そんな私の目を覚ましてくれたのは、高度なテクニックでも派手な演出でもなく「愛のアダージョ」でした。 ただ、深々と「愛してます」という気持ちが伝わってくるんです。以前観た白鳥では感じなかったのですから、踊り手の妙でしょうか? 周囲を取り巻く白鳥の世界が、優雅だったからでしょうか? 今回の白鳥の衣装は、オデット以外のチュチュの丈が膝まであるロマンティックなもので、しかも羽をモチーフにしているのでひらひらふわふわと本当に繊細で優雅でした。 そんな白鳥たちに囲まれて、背後から王子に支えられ、その肩口に凭れてすべてを預けきっている姿が、とても儚げで素敵でした。 三幕は宮廷での舞踏会。白鳥以外は一着として同じ衣装はないというだけあって、キャラクターの女性のベルベットやサテンのドレス、僧服、騎士のマントの垂れ具合に至るまで、本当に目の保養としか言いようがありません。 花嫁候補のダンサーの衣装も少しずつ違っていて、これもロマンティックで可愛い! それでも色はグレイッシュカラーと、落ち着いていました。民族舞踊は、ナポリ(とことん明るく舞台中を跳ねまわり)とスペイン(赤の照明で情熱的に)のみでした。 そして主役二人のパ・ド・ドゥは技術に溜息でした。 …が、黒鳥オディールの見せ場の32回転の後に、さらに王子の回転が入るのですが、熊川くんのスピードが並ではないので、せっかくの黒鳥の32回転の醍醐味が薄れてしまうという…。そして残念なことに、この日は勢いがつきすぎたのかラストによろけてしまったんですよね。さすがに苦笑い…。 王子はオデットとオディールを勘違いしたまま、花嫁に指名してロットバルトに嘲笑われます。オープニング同様、マントの使い方がうまくて、足元を何気に隠しているため、ワイヤーで吊られて舞台を移動しているように見えるんです。そう動けるダンサーがすごいんですが、こんなに出張ったロッドバルドも珍しい。 四幕で追いつめられたオデットと王子が「愛のために死ぬ」のは、いつ観ても展開に納得できませんが、…愛の力と白鳥たちによってロットバルトは滅び、二人は天国へ…ゴンドラじゃない!? 熊川演出では、紗幕の向こう側で、人間の姿に戻ったオデットと王子が手に手をとって階段を昇っていきました。そのセットがまた、御伽噺の絵本の表紙のような装飾なので、本当に最初から最後までロマンティックな舞台でした。 従来の白鳥の世界が好きな人には、少女趣味すぎたかもしれませんが、私としてはこちらの方が好みです。しみじみと、…演出って大きいのだと思いました。
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