迷い心


2003年05月24日(土) お伽噺

こぢんまりと花が咲いた
けど濃い森の奥だったから
人目に触れることはなかった

それでも昆虫や鳥が蜜のにおいに誘われ
受粉は繰り返され
花は季節毎に一輪だけ咲いた

花がいつからそこに咲き始めたか知る人は居ない
見る人も居ないから花の名前は誰も知らなかった

時たま花は思った
自分は誰がために咲き
季節が巡るたびに目覚めるのか

土中の根でまどろみ
新芽で呼吸し
つぼみでまばたいた

咲くたびに考えたが
いつも答えが出る前にまた眠りについてしまった

昆虫に尋ねてみたこともあったが
花粉をはむはむ食べるばかりで答えは返ってこなかった
昆虫に耳はなかったし
そもそも花に口はない
鳥に至っても囀るばかりで
うるさいだけだった

花は寂しいわけでは無かった
元から他の花を知らなかったから
自分が花というのも認識してなかった
時期が来ればたまに考え事が出来るんだろうと思っていた

人の一生が終わるか
文明が一個滅びるくらいの時間が経った

それでも濃い森は微妙に大きさを変えつつも
依然花の周りは濃いままだった

色鮮やかに香り豊かに花は咲き続けた
特に何かを求めるわけでなく
生きるという意志があるわけでなく
時間が流れるままに生き続けた

そして時たまにだけ考えることにした
「なんで咲いてるんだろう」
時間はいっぱいあった
花には時間も自分もそういった類の概念は無かったから
ただ咲き続けた


僕らが踏み込めない場所でのお話
知ることが出来ないから無きに等しいお話


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仁 [MAIL] [My追加]