あまおと、あまあし
あまおと、あまあし
 夢「雨天」 2002年05月01日(水)


彼を殺さなければなりません。
僕は、彼を殺さなければなりません。
振り出した雨の中、硬く抱き合った腕を放して。

世界の王である彼の父は<塔>に昇り、禅譲と共に雷帝となることを決意しました。
雷帝の雷は、まもなく降り出す雨と共に、下されるでしょう。
僕の友の上に。王の息子であり、暗殺者でもある彼の上に。
そして王の座は、花女のものとなるでしょう。
僕は、彼を突き放し、雨の中へ走らせねばなりません。
花女のために。愛する美しい少女のために。

彼は殺すことを悦び、多くの命を奪いすぎました。
例えそれが、父親である王のためであったとはいえ。
命を奪うことを悦びとする者が、王の座に就けるはずはないのです。
美しく優しい花女。彼女こそが、次の王に相応しいのです。

降り出した雨が、頬を濡らして、僕の心を冷やします。
僕が手を離せば、雷はすぐに落ちるでしょう。
彼の身体を焼き、打ち滅ぼすでしょう。
僕は花女の伴侶となり、王国は更に栄えるでしょう。

雨が僕を打ちます。
彼の身体のぬくもりが、僕の腕を暖めます。
彼の孤独を知った僕に、この腕を放すことなど出来るのだろうかと。
僕を信じている彼の眼差しに、花女の微笑が重なります。
僕は、どちらかを選ばなければならない。
どちらかを。


 ※  ※  ※

こりもせず夢記録。
しかも旧泡で既出ですが、記録が紛失しているので再掲。
細かいところは忘れておりますが。
すごく悲しい夢でした。
雨の冷たさと、天へと聳え立つ塔の灰色で無機質な姿が印象的でした。
彼のことも好き、だったんですよ。夢の中の「僕」は。
花女の事もすごくすごく愛してたんですが。
結局、雷帝の権力の及なない国外へと、手を繋いだまま逃亡することを選ぼうと考えた所で、目が覚めました。



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 著者 : 和禾  Home : 雨渡宮  図案 : maybe