あまおと、あまあし
あまおと、あまあし
 note-夏の葬列 2002年07月22日(月)


ヒグラシは、梅雨の頃からずっと鳴きつづけている。
なのに、その弦楽にも似た悲しげな音に気づくのは、夏の暑さと陽光の激しさに打ちのめされた、その後だ。

耳を閉じているのだろうか。
私は聞いてなどいない。
聞かぬものは、存在しないものだ。
ヒグラシは夏の終わりの生き物で、夏も始まらぬ鬱屈した気分など知るはずもないと。
紫陽花を摘みながら、音を捨てている。

男は穴を掘っていた。
薄い筋肉しかついていない背中が、木漏れ日を背負い動いていた。
金貨の形をした光が、汗で貼りついたシャツの上を生き物のように動くのを、どんな気持ちで見ていたのか。
自分のことであるのに、思い出せない。
湿気に満ちた空気と森のざわめきだけは鮮やかに、それはアルバムに閉じられた誰かの写真のようだ。

ヒグラシの声がする。
夕暮れの迫る森を震わせ、夜を呼ぶように声がする。
夏はまだ始まらぬのにと、足元を見つめて。
穴を掘り終えてしまったのだから、もう夏は来はしないのだ。


 ※ ※ ※ ※

実は流星群に投稿しようと思っていたネタ。
結局未だに形にならず。
いいかげんそろそろ、エンジン始動させねばいけません。



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 著者 : 和禾  Home : 雨渡宮  図案 : maybe