たそがれまで
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2003年04月18日(金) 元夫のこと 2





元夫は高校卒業後、板前の修業の為にとある温泉街の老舗旅館に就職をした。
外見とは裏腹にとても手先が器用だったのと、厳しい修行のおかげで
どこへ出ても恥ずかしくない腕を身につけた。

私と再会した時期は別の仕事をしていたのだが、機会があれば
もう一度包丁を握りたいと、自分が頭になりたいとよく口にした。

つき合いだしてしばらくした頃、音信不通にしていた親元へ
私を連れて行きたいと言いだした。
親に迷惑をかけたことを反省している事と、今は一生懸命仕事をして
元気にしている事を伝えたいからと・・・。

同級生でクラスメートだったのだから、元夫の実家は近所だったのだが
初めて踏み入った実家は、古家だがセンスの良いインテリアで統一された
大きな家だった。

2年振りに逢う親子の狭間で、何も言葉を挟めない私。
やっとのことで、簡単な自己紹介と挨拶をするのが精一杯だった。

突然に現れた息子に動揺しつつも、決して怒ることもなく
私への対応も優しくして下さった。
半同棲状態であることを告げると、すぐにでも籍を入れなさいと言われた。
(同棲と云っても、我が家の隣のアパートに元夫が勝手に越して来ただけの
 話しだし、それも大家である私の養母が勝手に元夫に部屋を貸しただけの話し
 養母は元夫が養子に来てくれそうだからと、気に入ったようだ)

正直に言えば、私は全然結婚なんて考えても居なかった。
だけどはっきりと意思表示もしなかった。
今までの人生と同じ。
流れに身をまかせるだけで、自分で流れを変えることもしなかった。

周りでどんどん話しが進行していき、気がつけば入籍の日取りが決定していた。
結婚というものに何の期待もしていなかった私には、
どうにかなるさとそのくらいの認識しかなかった。
結婚というものに、冷めた感情しか持ってなかった。
仲の悪い両親を見て育ったことで、結婚って楽しいものではないらしい、
そんな感覚だったのかもしれない。



結婚してしまえばどうにかなる。
そう、どうにかなる。

だけどどうにもならなかった。
どうしようとも思わなかった。

一番悪いのは私。
自己主張もせず、後になって「こんな筈じゃなかった」と
相手を責めたってどうしようもない。



入籍後、同級生が親から代替わりした割烹料理屋を手伝うことで
板前に復帰した元夫。
私もしばらく仲居として店を手伝っていた。

あの頃が元夫と私にとって、一番平穏な日々だった。
ほんの1年だけの静かな時間。
いや、嵐の前の静けさだった。





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