Turn, Turn, Turn
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2003年05月10日(土) |
もう手遅れなのか?/blur"THINK TANK" |
テロなんじゃないのか? さもなければ、人類への懲罰か? 最悪のタイミングで、我が日本にもその驚異がすぐそこまで迫っているSARS。きっと、僕らもあの窮屈なマスクをして、会社へ通ったり、学校へ向かったりしなければいけなくなってしまうのだろう。君の待つ場所にさえ? ああ。
blur四年ぶりの新作、『THINK TANK』が傑作だ。重くていかつい宇宙服のマスク、あるいはガスマスクと思しきものを付けた男女が見つめあっている表ジャケ。
「僕は信じる。大事なのは愛だけだ」「僕はただ、君といたい」「君が望むなら、僕たちは一つになれる」。そう、つまりこういうこと。英国が世界に誇る稀代のポップ・メーカー、デーモン・アルバーンがバンド史上最高のこの音楽的充実作で伝えたいのは、愛だ。そして、そこから必ず生まれてくる平和だ。どんな障壁があったって、世界が悲しく暮れていたって、僕は君が好き。SARSであろうと、言ってしまえば、君がAIDSであったって僕は君を抱きしめる。マスクなんてあってないようなものだ。
ぶっちゃけ緩いアルバム。しかし、それがいつの間にか自分の身体を優しさで包みこんでいる。ここ数年のデーモンの獅子奮迅の活動がもたらした、西洋の枠に収まらない多文化的なサウンドは、僕らの遺伝子に深く刻みこまれた歴史の記憶を呼び起こさせる。そして、僕らはただのヒトなんだ、憎む相手もまたヒトなんだという、「片一方の真実」をだんだんと、しかし強く指し示してくれる。
2曲目と10曲目と13曲目が圧倒的に素晴らしい。デーモンのメロディは、歌声は、ここ数年のノエル・ギャラガーとリアム・ギャラガーや、トム・ヨーク、クリス・マーティンを軽く凌駕していると思ってしまうほど優しさと愛と願いに満ちている。そして、ただの感動ソングに終わらないのは、リズムがよく練られていて素晴らしいからだ。
確かにここにはグレアム・コクソンがいない。blurであってblurでないアルバム。けれど、そんなデーモン自身だって悲しい事実を飛び越えて、これは名盤だ。とにかく、みっともないほど、純粋に愛を信じているからこそ、名盤だ。あのアイロニカルな知性に満ちたデーモンが、これをやったこと。これだけでもいいんじゃないかな?
業界5位の都市銀行が実質的に潰れた。北は狂ってきた。もうすぐだ。僕には怖いものなんかない。
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