【シュークリーム作成日誌】

2002年10月25日(金) SSS#32「瀬戸口→水色速水 ギャグ2」

調子に乗って第二回。…ひょっとして連載?





【瀬戸口隆之受難の日 2】







茫然自失から立ち直るなり、瀬戸口は速水をぎゅうぎゅうと抱き締めた。

「なんで準竜師!?姫さんならまだしも…。あんな24歳にあるまじき老け顔のおっさんの
 どこが良いんだ!ソックス大好きっ子な変態で、国民の血税で自宅の地下室に100坪も
 あるソックス保管庫を作るような奴で、ギャグセンスも無いくせにオヤジギャグが
 大好きで陳情画面で遺影の真似しながら『イェーイ☆』とか言っちゃうような奴だぞ!」

そこまでやってません。
瀬戸口のあまりの誹謗中傷に、速水は困った様子で眉を下げた。

「あんまり酷い事言わないで。僕には大切な人なんだから」
「大切な人!?」

青年のすらりとした長身が、脳天に鉄球でも喰らったかのように仰け反る。
そのまま大袈裟によろめきつつ、瀬戸口は長い指で額を押さえた。

「待てよ…。ほんとにどうしてあんなのを好きになったんだ?
 てか、ほんとに好きなの?何か企んでるんじゃないのか?」
「違うよ、僕は…」

速水はえへへと小さく笑って頬を染める。照れ臭そうに肩を竦め、片手で柔らかな髪をかき混ぜるその様は、まさに恋する乙女そのものだった。
瀬戸口の目は死んでいる。

「だってね。初めて、僕の事、好きって言ってくれた人なんだもん」

それだけ言うと、速水は真っ赤になった頬に両手を当て、小さな子供のようにイヤイヤをした。

(まさか…早い者勝ち…?)

『鳶に油揚げ攫われた』

教室に居た全員の脳裏に、瞬間同じ言葉が浮かんだ。

「そ…」

瀬戸口は震える手を離し、速水の肩を掴んで自分と向き合わせる。

「それなら俺だって幾らでも告白してやる!
 ……。
 好きだ、速水。
 お前が今はあの男を好きでも、必ず振り向かせる。
 七つの世界にかけて、俺は君を好きなんだ。どの世界にあろうとも。
 いつか、かならず、この距離を縮めてみせる。世界を越えて…!」

瀬戸口…。いくら本命の前では上手く告白できないからって…パクリまくりである。
当のイワタマンは幸いにも、ひとり踊り狂っていて気付いていない。
速水はそうとう驚いた様子で、目をぱちくりさせている。
きょとんとした表情が愛らしい。
だが、数秒して事態を把握すると、少し困ったように笑った。

「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいな。でも、ごめんね。
 僕、勝吏さんの恋人だから」

恋人…。しかも名前呼び…?
瀬戸口のみならず、その場に居た全員が心に深い傷を負った。
一気に通夜の如き雰囲気に包まれた教室の中で、速水の周囲半径1mのみが明るい雰囲気である。

コンコン。

教室の戸が、控えめにノックされた。

「誰ですか?」

善行の誰何の言葉に、応える声に全員耳を疑った。

「俺だ」
「勝吏さん!!」

速水がぱっと顔を輝かせる。
肩を抱く瀬戸口を振り払い、仔鹿の跳ねるような足取りで教室の入口へと駈けていく。
振り払われた瀬戸口は、衝撃と精神的ショックでその場に仰向けに倒れる。
後頭部でも強打したのか、ゴチンと鈍い音がしたが誰も気に留めていなかった。
芝村準竜師の前に立ちその顔を見上げる速水の微笑みは、天使も斯くやと思わせるほど、幸福の息吹に満ち溢れている。

「どうしてここに来てくれたの?」
「ふ。可愛い厚志の顔が見たくなってな」
「お前が『厚志』言うな!!」

いつの間に起き上がったのか。
半泣きになりながら、ヨーコさん仕込みの光る右ストレート(※精霊手)を繰り出す瀬戸口。
黙って事態の推移を見守っていた善行が、ここに至って初めて動いた。
左手で愛用の眼鏡を押さえ、右手をパチンの鳴らす。
若宮が、そして来須が、瀬戸口と準竜師の間に割り込んだ。
回り込もうとする虚弱体質オペレーターを、熊本最強スカウトズが羽交い絞めにする。

「離せ!お前ら速水が準竜師の嫁になっても良いってのか!?」

叫びながら渾身の力で振り払おうとする瀬戸口を、これまた渾身の力で押さえつけるマッスル。
いや、そんなに押すと…。




ぷち。




あ、つぶれた。







つづく
…てか、こんなトコで切るな。



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