2003年01月23日(木) |
SSS#40「瀬戸口×速水。ギャグ?」 |
【HOME SWEET HOME】
吐く息が白く曇る。 暖房器具は足元の電気ヒーターだけで、それもこんなに広い空間では殆どその用を為さない。 膝が小刻みに震える。 かじかむ指で人工筋肉の接合部を摘もうとして、また失敗した。 溜息が出る。 苛立つほどに、痺れて自由にならない指先。 小さな両手を口許に当てて、はーっと息を吹き掛けた。 一瞬だけ温かくなって、息の含む湿り気の分だけ、もっと冷たくなる。 両手の指をぎゅっと握り締め、速水は目を瞑った。 夜半を過ぎたハンガーに、人気はない。
ふわり。 覆い被さる温もりは、白。 白いコートを着た、瀬戸口。 女物のように瀟洒なデザインのそれのせいで痴漢に遭ったと、不機嫌極まりない声でぼやいていたのはつい先日のこと。 それを知らずに、夕焼け色の髪に映えてとても似合うと速水が誉めたのに他意は無かった。 でも、速水がそう言ったので、瀬戸口は大嫌いになったはずのそのコートを律儀に着てくる。
「こんなに寒いのに、もっと寒いハンガーなんかにいるもんじゃないよ。 カッコ良いおにーさんと一緒に帰ろう」
瀬戸口は充分カッコ良いけれど、自分でそう言うところが胡散臭いと速水は思う。
「でもまだ調整が終わって無いから…」 「明日でも出来るだろ」 「明日になる前に出撃があったら困るじゃない」 「なら尚更。パイロットが風邪引いたらどうにもならないだろう」
コートの前を開いて、速水をすっぽりと包み込む。 青年は抱き締めた彼の冷え切った手を取って、自分の首筋に押し当てた。
「瀬戸口さんっ。冷たいでしょ…」 「ん…。でもこうやってるとお前は温かくない? ここ、血が通ってるから温かいと思うんだが」
とくり、とくり。 速水の指先が触れた薄い皮膚の下に、暖かな鼓動が通っている。 黙ってぼうっとそれを眺めている速水の目の高さが、瀬戸口の咽喉の高さだ。 少しだけ視線を上げると、整った口許が見える。 半月型に微笑んだそれが。 掴んだ手を、今度は微笑んだ唇に当て、淡紫の眼が細くなる。
「首も温かいけれど、口の中はもっと温かいと思う…」
整った薄い唇が、細い指先を軽く食んだ。
「試してみる?」
真っ赤になって勢い良く跳び退る少年に、瀬戸口は今度は声をあげて笑った。
「冗談だよ。ほら、帰ろう。 お前さんが帰らないなら俺も帰らないぞ。 俺が風邪を引いたら、速水に責任もって誠心誠意24時間看病して貰うからな」
瀬戸口の妙な脅しに屈服する速水。 しぶしぶ片付けを始める。 それを手伝いながら、瀬戸口はさり気ない口調で訊いてみた。
「今日、速水の家に泊まってもいいかい?」 「なんで?」 「ふたりで家に居た方が、暖房が節約できる。 人間の体温ていうのは馬鹿にしたもんじゃないぞ」 「…要するに僕を湯たんぽ代わりにしたいってこと?」 「身もふたも無いな」
思わずがっくりと項垂れる瀬戸口の広い背中をぽんぽんと叩いて、速水は笑った。
「いいよ、僕も君を湯たんぽ代わりにするから」
素直に喜ぶべきか悲しむべきか。 複雑な表情を浮かべる美青年。 速水は彼を促がしてハンガーを後にする。 気付けば雪が降っていた。 ひらり、ひらり…。 羽毛のように舞い降りる白いもの。 耳が痛いほどにしんと冷たい空気。
手袋をしていない速水の手に、暖かいものが被せられる。
「…何これ」 「寒いだろうからさ。あいにく手袋ないから、くつし…っ」
最後まで言い切る前に、瀬戸口は蹴られた。 倒れた彼の背に、純白の靴下が一揃い、投げ捨てられる。 速水はそのまま帰った。 瀬戸口の上に、雪はしんしんと降り積もる…。
***
瀬戸口は風邪をこじらせ、それから一週間学校を休んだ。 しかし彼は幸せだった。
「あっちゃん、雑炊に葱は入れないでくれ…」 「もう入れちゃったよ。ついでに靴下も入れとく?」 「すみません速水さん。もう好き嫌い言いません」 「よろしい」
尊大に頷く速水に神妙な顔をしてみせ、瀬戸口はこっそり笑う。 怒られようとも苛められようとも、速水が構ってくれるのが嬉しくてならない。
「何笑ってるの?」 「何でもないよ」 「何でもなくて笑ってるの?」 「あっちゃんが側に居てくれて嬉しいなあって」 「ば、馬鹿じゃないっ!」
いつもは一人ぼっちで寝に帰るだけの家。 けれど今、ここは世界一のスイートホーム。
Fin ――――――――――――――――――――――――――――――――
またインフルエンザが流行っているようですねえ。 私の周囲にも空席が目立ちます。インフルエンザの猛威で明日の飲み会も延期に…。くっ; ま、あまりお話したことのない人と二人きりで飲みに行くのも、不安ですしね(実は人見知り) 女の子がいっぱい居た方がいいので、また来週のお楽しみにします。
あー、でも金曜の夜が暇になってしまった…。 素直にウチに帰れという何者かの意思を感じますが、遊ぶぞーという気分だったので素直になれないお年頃(何?) どうしようかな…。
私信:例の会。受付順調。お一人様のみご予定が付かないとの事。 明日には皆様にご連絡を。
それから、メールのお返事は週末になってしまいそうです。 それと、宇多津にかさん(名指し) 10000hit申告ありがとうございましたv SSSですので、リクを頂けばすぐに書きあがると思われます。 どうぞ宜しく。
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