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2002年08月25日(日) ■ |
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恩返し。 |
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「うわっ!なんだその鞄!」 「? どうした」
登校してきた鈴木が机の上に置いた学生鞄を目にするなり、佐藤は思わず声を上げた。 自分の鞄を指差しながら逃げ腰の幼馴染みに、鈴木は驚愕の対象となっているらしきソレを眺める。 今朝の彼の学生鞄は全体に青光りしていた。 そうまるで――魚のうろこで覆われているように。 否、『まるで』ではなくそのまんまなのだが。
「なんだそりゃ?!」 「ああ、これか。 実はな。昨日の下校途中――行き倒れてる鯖に遭遇してな」 「・・・サバ?」 「魚の鯖だ。ひれで歩いて言語を解する鯖だったんだが、どうやら異世界人だったらしい」 「・・・まぁ、そういうヤツで宇宙人でないならソウだろうな」 「それで、空腹のあまり行き倒れてたらしくてな。幸い、オフクロの言い付けで買い物に寄らされた帰りだったから、持ち合わせのものを食わせたら大層喜んでくれて」 「それで?」 「礼だと言って、自分のウロコを一枚剥いで、持ってた俺の学生鞄に貼ってくれたんだ」 「・・・一枚?」 「そうなんだ。その時は一枚きりだったんだが――朝起きたら、こうなってた」 そう言って、コレコレと机の上の鞄を指差す。
・・・全体にびっしりと増殖したらしきウロコ。 まるで、最初からそう作られているかのように、規則正しく隙間なく。
「さすが異世界人の鯖だな。全然魚臭くないんだ」 「いや、問題はそこじゃねぇ」
結局その鞄は、少々マッドがかっていると噂の生物部顧問に拉致られて、昼休みには普通の黒い学生鞄に戻って、鈴木の手に返ってきたのだが。 個性的で気に入っていたのに、と残念そうなクラスメートに、佐藤はふとあることを尋ねた。
「そういや、お前そいつになに食わせたんだ?」 「味噌煮の缶詰だ」 「・・・何の」 「手元には、二種類あったんだがな。 ところが、イワシはオフクロのリクエストで買って帰ってたヤツだったんで、止むを得ずサバの方を」 ――待て。 「・・・共食いにならねぇのか?」 「美味かったと喜んでたし、別にいいんじゃないか? 相手は異世界人なんだし・・・まぁ細かいことは気にするな」 「・・・・・・ま、喜んでたならいいけどな」 後になって『共食いさせられた』と相手が怒鳴り込んで来るまでは、佐藤はこの件に関してそのままキレイサッパリと忘れることに決めた。
――今日も何事もない平和な一日だった。
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