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2002年10月01日(火) ■ |
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徒競走見学中? |
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パン、パパパーン・・・! わあぁぁ――っ
設営されたテントの下で、二年五組の四人がそれぞれの表情でグラウンドを眺めている。 学校の体育祭は明後日・・・のはずだが、大きな用具の設営が終了しているグラウンドでは、今まさに『リレー競争』の本番真っ最中であった――。
「おお、盛り上がってるな」 「なんかさーこういうノリのいい曲聴いてたら自分まで走りたくなったりしない?!うわーなんかウズウズしてくるなー!」 「み・・・皆も楽しそうだよね。・・・わぁ、デットヒートだ」 「行けーそこだまくれー!!」 「や、山本くん・・・それなに?」 「えーっ、競争とかで盛り上がってるの見てたら言いたくならない?!」 「へ、へぇーっ。そういう時の掛け声なんだ・・・そっか」 「・・・・・・」
納得している小林に、接着剤を片手にして佐藤が溜め息をついた。
「・・・小林、それ違う」 「え、え?え? そ、そうなの、佐藤くん」 「山本も間違った知識教えるんじゃねぇ」 「なんでだよー、競馬競輪競艇、全部競争じゃんかー」 「そりゃそうかもしれねぇが、徒競走とは違うだろ!! つか、お前それ全部出入りしてやがるのか?!」 「えーまさかーあははははははは」
けろっと笑う山本の隣で、 「あ。またこけた」 鈴木がポツリと呟いた。 と、ほぼ時を同じくして・・・
――ガシャガシャガシャ、バリン!
派手に破壊音が響き渡る。 「くっそ、またか!!」 佐藤が毒づく目の前で、四人のいるテントまでわらわらと何かが運び込まれてくる。それと同時に、四人は運び込まれた大きな陶片にせっせと接着剤を塗りたくっていく。 「おっしごっと、おっしごっとー♪」 「・・・楽しそうだなオイ」 「えーっだってさー、こーなんか立体のジグソーパズルやってる気になんない?」 「ふむ、言われてみればそうだな」 「でしょでしょー!」 「お前ら・・・」 作業する手を止めて、佐藤は深く深く溜め息をついた。 「ジクソーパズルは勝手に動かねぇ。ていうか、徒競走してる最中にこけたりもしねぇ」 「仕方ないだろう。体が大きい上に足(コンパス)が短いから、突発的な事態に対応しきれないんだ」 「問題はそこじゃねぇ」 とだけ言って、佐藤は現在修復中の等身大土偶を憂鬱そうに眺めた。
そう、普通の土偶は歩いたり走ったりしないものだ。 ましてや、集団で徒競走など――。
「ていうか、なんで俺たちこんなことやってんだ」 『保健委員』として借り出されてしまった我が身を嘆きながら、佐藤は今回最後の陶片に接着剤を塗りたくり空いている穴にはめ込むと、ドライヤーの電源を入れた。
ゴーッ・・・
「ほら、乾いた。終わりだ終わり」 スイッチを切ると、やや疲れたように脇の机に道具を投げ出す。 『%#△*◎□△vvv』 「はいはい、もうこけるなよ・・・」 感謝の言葉を述べてくれているらしい相手に、なげやり気味に手を振って、佐藤はぐったりと椅子に伸びる。 「ったく・・・誰がこんな面倒ごとを・・・」 そんな佐藤の呟きに反応した人間がひとり。
「えへ?」
「・・・お前か。やっぱりお前か山本ーーー!!!」 「まぁいいじゃんかーこれバイト代出るしー」 「金さえ出れば何でもいいお前と一緒にするなー!」 「お金だけじゃないよー、だってすっごい困ってたみたいでさー運動会やりたいのに場所がないってー。ほら、ちょうどボクらのトコ運動会近かったしさーだからリジチョーに話ししたらレンタルしてくれるってー。で、ついでに救急隊もいるだろーからってボクらが雇われることになったんだよー。えっへん」 「へ、へぇ・・・人助けなんだね」 「そうなんだよねー!」 「・・・」
えっへん、てのはなんだ山本。 そもそも・・・『人』助け? いや、そんなことより。
「・・・レンタル?」 こいつらから金とってやがるのか。 「ほほう、さすが理事長。転んでもただでは起きないな」 「感心してる場合か鈴木」 「しかし、これで今年の単位はバッチリだ。不測の事態が発生して一時行方不明になったとしても間違いなく進級できる」 「お前、いつの間にそんな取引してやがる。 ていうか、そういう事態が起きること前提に話を進めるんじゃねぇ! 大体そういう時には俺が巻き込まれてるだろうが!」 「心配するな、四人分まとめての話だ」 「俺が巻き込まれること前提に話してんじゃねぇ、ってことだ!」
ガシャガシャン――!
「・・・」 「おお、今の大声に驚いたようだな」 すぐそばで起きた土偶の将棋倒しを眺めて、鈴木が淡々と原因を指摘する。 嗚呼、魔の連鎖反応。 再び陶片にせっせと接着剤を塗りたくりながら、佐藤は手元の破片を目の前の患者の頭に前衛的角度でくっつけたくなる衝動と必死に戦っていた。
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