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2002年10月07日(月) ■ |
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行く川の流れは絶えずして・・・ |
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「? 鈴木、何見てんだ?」
一緒に歩いていた幼馴染が、川べりでふと足を止めたのに気付いた佐藤は、訝しげな顔で鈴木に歩み寄った。 鈴木はちらりと佐藤に目をやり、 「あれなんだが・・・」 川面を指差した。 ぷかぷかと漂いながら川面を流れていくそれは――、
「・・・枕?」 「ああ、枕だな」
白いカバーのついた長方形の物体。 ちょうど旅館などで使われるそれと、寸分たがわぬサイズ。 紛れもなく枕である。 上流・・・流れてきた方向を眺めた佐藤は、視線の先に旅館街があるのを見てとり、やや納得の表情を浮かべた。 「そっか、多分枕投げの残骸だろうな」 「ああ。多分それは、な」 「・・・」
多分、それは?
嫌な響きの一言に、佐藤は鈴木を問いただすべきか、聞かなかったふりをしてその場を立ち去るか一瞬躊躇する。 ――少年よ、その一瞬が命取りだ。 「ほら、あれ」 佐藤少年は、つい鈴木の指し示す方向を眺めて――激しく後悔した。 「・・・や、やっぱり見るんじゃなかった」 枕の後を追うように角を曲がって流れてきたのは、
「手足がついているな。一見、枕っぽいがよく似た姿の異世界人・・・だろうか? おお、溺れている」 「冷静に溺れてるとこ眺めてんじゃねぇ!」
じたばたと、もがくように水面を浮き沈みしている似非枕。 川に入るべきか、とガードレールに手をかけた佐藤は、
「うわーっお客さーん!!」
ひどく聞き覚えのある声に、再び動きを止めた。 「お客さん大丈夫ですかー?!」 「・・・山本?」 「あーっ鈴木クンと佐藤クンだーよかったー手伝ってよー!!」 ダッシュで駆け寄ってくる勤労少年の笑顔に、佐藤はつい身をを翻して逃げたい衝動に駆られる。 今までの経験に裏打ちされた予感と、それに基づく反射を、いったい誰が責められようか。 「山本。一体どうしたんだ」 「鈴木クーン!これ使ってお客さん拾ってよー!」 そう言うなり、山本は手にしていた魚とりの網を、槍投げの要領で鈴木に向かって放り投げた。 「ふむ。よしわかった」 カラコーンと足下に落ちてきた網を取り上げると、鈴木は川下に向かって走る。 ・・・意外と早い。 「あーよかったー!ボクひとりだったら間にあわないかと思っちゃったよー!」 「・・・で」 「佐藤クンなにー?」 「今度は、何のバイト中なんだ?」 「えーツアコンだよー!」 「またか」 「ツアコンは何回もやってるんだけどねー、今度のはさー『学生の枕投げに混ざってみよう』体験ツアーなんだー!」 「・・・」
そんなものに混ざってどうするというのだ。 しかも・・・あの姿。
「混ざるっつっても、あれじゃ投げられる側だろうが?!」 「うん、あたりまえじゃないかー、あれじゃあ投げる側には入れないよー?」 至極当たり前の口調で、それがどうしたと不思議そうに尋ねてくる山本。
それで楽しいのか?!
「このツアーさぁすーごい人気なんだよー、でも参加資格が保険に入ってることっていうくらいスリリングでさー、それも人気の理由なんだよねーあはははは」 ケロリとして笑う山本から視線を外すと、網を持って意気揚揚と帰ってくる幼馴染の姿が嫌でも目に入る。 「・・・なんでアイツと街を歩くと、こういうのに当たるんだ・・・」 長年の謎は、未だに解けそうにもない。
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