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2003年02月18日(火) ■ |
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「学園祭」編(高二) その9<開き直った者勝ち> |
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カツッ
静まり返った舞台の上に、靴音が響いた。 舞台袖から表れた白い影にスポットライトが当てられた瞬間、
「きゃあーーーーーっ!!!」
脳天を突き抜けるような甲高い歓声が体育館を揺らす。 いつのまにやら、観客席のいたるところに張られた横断幕に書かれているのは、 『先輩がんばってください ♥ 』 『副キャプテン、目指せ優勝 ♥ 』 『お姉さま、ふぁいと ♥ 』 等等、必ず語尾にハートマークの付いた応援メッセージの数々である。
「せぇーーんぱぁーーいっ♥ 」
観客席の各所からいまだかつてないほどの黄色い声援を浴びているその人物は、さりげなく粋な仕種で白いマントの裾を払いつつ観客席へと向き直る。 白い王子様服に包まれたすらりとしたシルエットは、ゆっくりと視線を巡らし、フ、と甘い笑みを浮かべると、上がりかけた歓声を止めるように手を差し伸べた。
「ああ、どこかから私を呼ぶ声が聞こえる。 この声は森の妖精たちか? 可愛いひとたち、声援ありがとう!」
このセリフに、王子様限定応援団 ―― すなわち、高橋静香私設FC(ファンクラブ)のボルテージは最高潮に達する。
「きゃーーーーーっ!!!」
悲鳴にも似た歓声を浴びつつ、王子様=2年5組委員長、高橋女史は差し伸べた手を胸に当て「くっ」と声を上げた。
「しかし私は、私に与えられた予言の通り、運命の姫を探さねばならない。 許しておくれ、可愛いひとたち。 君たちのことは忘れないよ!」
またしても上がる悲鳴をBGMに、『王子』は再びマントの裾を払い光度を絞った舞台中央へと視線を向けた。
(・・・・・・い、委員長?) 同じ舞台上で「死体中」の白雪姫、もとい、仮死状態の白雪姫を演じている佐藤は、そのあまりのキレっぷりに自分の正気を疑っていた。 これは夢か幻か。
あるいは、『ヅカ』のステージか。
(・・・・・・・・開き直ったら怖ぇなぁ・・・) どうやら、優勝を勝ち取る・・・否、もぎ取るために手段を選ばない覚悟を決めたらしい。 いつもは適当にあしらっている私設FCの存在を最大限に活用する方策のようだ。 たしかに、有効な手段といえよう。 元々バスケ部部員からの絶対の支持を得ている副部長であるうえ、FCメンバー以外にも隠れファンが多いという噂だし、彼女のキレっぷりを見て『転ぶ』女生徒の発生する率も高いはず。 この瞬間だけをとっても、おそらく百近くの票は固い。 佐藤はそう予測する。 さらに、佐藤は計算に入れていないが ―― あるいは、無意識のうちに計算に入れたくないのか ―― 白雪姫登場のあの瞬間にもかなりの票を稼いだはずである。 とりあえず今のところ、今年『最強』の『カップル』ではないだろうか。
(・・・次回に続く〔力尽き〕)
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