翌日からモリタ君は登場した。 まず二三日つきっきりで、会社のシステムや接客のいろはなどを教え込んだ。 が、モリタ君は物覚えが悪い。 さらに困ったことに人の話を全然聞いていない。 例えば、「主任、これはどういうことですか?」と聞いてきたので、「これは・・・」と教えようとすると、急に歩き出して質問とはまったく関係ない物を手にとって珍しそうに眺めている。 「あんた人にものを尋ねとって、他のことをせんでもいいやろ!」というと、「ええっ? ぼくが何か言いましたかねぇ」 と言う。
また、こういうことがあった。 ぼくが「今日メーカーから電話が入るはずやけ、もしかかったら電話を(1Fに)回して」と頼んだ。 モリタ君は急に怪訝な顔をして、少し間を置いて「しゅ、主任! 電話を回すとはどういうことですか?」と言った。 ぼくは唖然として近くにあった電話の受話器のコードをつかみ、受話器をグルグル回しながら「電話を回せとは、電話を取り次げということ!」と大声で怒鳴った。 『こいつは馬鹿だ』とぼくは思った。
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