当時ぼくは32歳だった。 ある日雑談の中で「モリタ君はいくつかねぇ?」と聞いた。 モリタ君はムッとした顔をして「言いたくありません」と言った。 「どうして言いたくないんね?」 「恥ずかしいですから」 「はぁっ? 何で自分の歳を言うのが恥ずかしいんね? 男やろ、何歳になったんね?」 ぼくがちょっと声を荒げて言うと、モリタ君はしぶしぶ「29歳です」と言った。 「29歳のどこが恥ずかしいん?」と聞くと、モリタ君は吐き捨てるように「独身ですから」と言った。 ぼくは頭に来たふりをして言った。 「あんた、おれを馬鹿にしとるんか?29歳の独身が恥ずかしいんなら、32歳で独身のおれはどうなるんか!?」 モリタ君はブスッとして「すいません」と言った。 その後もことあるたびに、ぼくは意地悪く「モリタ君はいくつかねぇ?」と聞いてやった。
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