モリタ君がぼくの部門にいたのは半年ぐらいだった。 組織の変更に伴い、ぼくは楽器部門を離れた。 同時にモリタ君は商品の荷受けのほうにまわされた。
そこでのエピソード。 お客さんが買っていった商品に不良が出て、配送の人が交換して持って帰ってきた。 「おい、モリタ。不良品ここに置いとくぞ」と配送の人が言った。 「はい。これは不良品ですね。わーかりましたっ」とモリタ君は元気よく答えた。 それから2,3時間ほどして、その商品の部門の人が商品を引き取りに来た。 「モリタ君、さっき配送の人が不良品を持って帰ってきたと思うんやけど・・・」と聞くと、モリタ君は「知りません」と答えた。 そこでその部門の人は、配送の人に問い合わせた。 「確かにモリタ君に渡したよ」と配送の人は言ったが、モリタ君は「そんなこと知りません」と言った。 でも、不良品を持って帰った時のやりとりを見ていた人がいたので、モリタ君の嘘はすぐにばれた。 モリタ君は不良品の行方の追求を受けることになった。 結局不良品は捨てたということだった。 モリタ君はみんなからボロクソに言われ、弁償することになった。
この事件から少ししてぼくは会社を辞めた。 ぼくの送別会にはモリタ君も参加していた。 しっかりヘタな歌を聴かされた。 その後モリタ君と会うことはなくなったが、ある時風の噂でモリタ君が会社を辞めたと聞いた。 コックになると言っていたそうだ。 おそらく、履歴書には「特技:料理」と書いたのだろう。
|