2003年12月03日(水) |
『bigining』(スキップ・ビート小ネタ) |
これは、お芝居なんだから。 これは、つくりものなんだから。
だから、こんな奇跡が、あるの。
これは、お芝居なんだから。 これは、つくりものなんだから。
羨ましいなんて、気のせいだから。 ――それがつくりものだって事が、悲しいなんて、気の迷いに決まってるんだから………
某テレビ局の屋上で、蓮は、見慣れた蛍光ドピンクツナギを発見した。
打ち合わせに参加したスタッフがヘビースモーカー揃いで、それほど煙草が嫌いではない蓮も、流石にあのうすくモヤがかかったような会議室に辟易し、少し風にあたろうと屋上に出てきたのだった。 このピンクのツナギを着る者は、2名ほどいるが、今蓮が見つけた彼女は、今時の茶髪だ。 ――つまり、例の、彼女。
しかし彼女は、蓮が来たことも知らず、座り込んで膝を抱え、そこに顔をふせたまま、動こうともしない。 その様子に不自然さを感じ、蓮は彼女に向かって一歩、踏み出した。
ため息をひとつついて、キョーコはようやく顔を上げた。 「はぁ…だめだなぁ……こんなのでキちゃうなんて………」 「何が来たのかな?」 「うひゃおわぃっっ??!!」 声とともに、キョーコの目の前に突然蓮が現れる。キョーコは奇声を上げてとびすさった。 さっきまで誰もいなかった筈なのに、突如として人が目の前に出現したこと。その上、世間での評価はどうか知らないが、キョーコの中では「関わりたくない男No2」(No1はショータロー)な敦賀 蓮のドアップ。おかげで、キョーコの心臓はヘビメタのドラムよろしく早打ちを展開してやまなかった。 「つつつ、つ、敦賀産?!」 声がひっくり返って、発音まであやしくなっている。 蓮はキョーコ曰くの「ウソつき紳士スマイル」でにっこりと、笑った。 「この前、教えたよね?」 この世界、先輩に会ったらどうするんだっけ? キラキラと、まさに輝くような光を放ちながら、それ以上に雰囲気で語るこの圧迫感。キョーコはぴょこん!とその場に正座した。 「お、おはようございます!敦賀さん!!」 (いやそこまで丁寧でなくても良いんだが……) キョーコは背筋をぴしり、と伸ばしたまま、まさに「三つ指をついておじぎする」お手本のような動きで蓮に頭を下げた。うわずっている声とはうらはらに、その動作はやわらかく、それでいてぴしりと引き締まった雰囲気を漂わせる。 確かお茶を習っていたんだったか、と蓮はぼんやりと思い出した。
そんな彼女の側に置かれた冊子が、屋上の風にあおられてぱらぱらとめくられる。それは、俳優である蓮にとってはごく馴染みのあるものだ。 「…それは…台本かな?」 「あ…はい。養成所に、昔公演したお芝居の台本があったので…勉強のために、貸してもらったんです」 キョーコは台本を取り上げると、それについてしまった砂をぽんぽん、と払いのけた。そして、どこかさびしそうに、その台本を見つめながら微笑む。
「……それで、泣いてた…とか?」 蓮の一言に、キョーコは文字通り飛び上がった。 (何故っ、なんでっっ!そんな事分かるのよっっ!この人ひょっとして超能力者――??!) 蓮は、吹き出したくなるのを辛うじてこらえた。…あまりにも分かり易すぎる。 「期待に添えなくて申し訳ないけど、俺は超能力者なんかじゃないよ」 そして彼は、自分の目元をとんとん…と指で軽く叩く。 「……少し濡れてるし、赤くなってる」
(…………あ…………)
キョーコは慌てて自分の顔に手をやろうとした。 「ダメだ」 蓮がそれを遮る。 「不用意に触らない方がいい。こすったりすると、はれてくるから」
「…………………」
涙を隠そうとしたことも止められて、キョーコは、うつむくしかなかった。
|