petit aqua vita
日頃のつぶやきやら、たまに小ネタやら…

2003年12月24日(水) 『宝石箱2』(女の子ヒカル小ネタ。オガヒカ)

冷たい海風が、ヒカルの喉をなでていく。
「うひゃ!寒いっっ!」
思わず首をすくめ、コートのフードについているフェイクファーを両手でかき寄せながら、ヒカルは駅からの道を歩いていた。
ここまでくれば、目的地はもうすぐ。
辺りは暗くなっていたけれども、その行き先は、色とりどりのイルミネーションが眩しいくらいに輝いている。
自然に、ヒカルの足も速くなった。

待ち合わせは、「よこはまコスモワールド」。
大きな観覧車に乗りたい、と言ったヒカルに、緒方が指定してきたのはそのクリスマスツリーの前だった。丁度、クリスマスになってしまったのは、緒方の仕事の都合でその日しか空かない、ということだったのだ。

(クリスマスパーティーも特大ケーキも、ちょっと惜しかったっちゃ惜しかったんだけどな……)

…でも、待望の観覧車はもう目の前。
ゲートをくぐり、ヒカルは一番目立つ観覧車の前にある光のツリーに向かって駆けだした。




「……う…わぁ………!」
目の前にそびえ立つ、巨大な観覧車。その観覧車はピンクレッドの、あたたかい光を灯し、ひとつ、ひとつとまた時を刻んでいる。冬のはりつめたつめたい空気の中で、その光はやわらかく、やさしくしかし華やかに輝いていた。
ひとつ、またひとつ。
時がたつごとに、花びらが増えて、まぁるいピンクの花が創られてゆく。
全てが完成するまで、もうすぐ。
「あ」
光の花が完成して、渦巻くようにイルミネーションが点滅する中、ヒカルはそんな様子に背を向けて立っている見慣れた白いコートを見つけた。
周囲のカップルが、その背後のクリスマスツリーと観覧車の光の幻想に目を奪われて見上げている中で、ひとり煙草を銜えて立っている。
なんとなく、その様子があまりにもらしくて、ヒカルはくすりと笑って、駆けだした。

「緒方さん!」
「……思ったよりも早かったな」
「何だよー。オレだってたまには時間くらい守るよ!」
「その割に、3分遅刻だが」
「細かすぎ!」

ぷぅ、とヒカルがむくれると、緒方はくつくつと笑いながらくしゃりとヒカルの髪をかきまわした。
「うわー、やめてってば!くしゃくしゃになるから!」
「細かいことは気にするな」
実に楽しそうに笑うと、緒方は紫煙を吐き出し、吸い殻を携帯の灰皿にねじ込んでぱちん、と閉じた。
ヒカルは緒方に乱された髪をなんとか元に直している。
すると、ふわり…と首元があたたかいものでくるまれた。
「へ?」
「見た目に寒すぎる。しばらくしておけ。そら、行くぞ」
「あ…うん」
観覧車へと向かう緒方の後についていきながら、ヒカルは肌触りの良いクリーム色のマフラーに顔をうずめた。
「緒方さん」
「なんだ」
「煙草くさいよ。コレ」
「文句言うなら返せ」
「やだ。だってあったかいもん」
「だったら黙ってしてろ」
「でも煙草くさいんだよホント」
「煙草ならやめる気はないぞ」
緒方の言葉に、ヒカルはくすくすと笑った。
「緒方さんが禁煙〜?想像つかない」
「想像しなくて良い。…大人一枚、子供一枚」
列に並んだところで、チケットを買い込んだ。
「えー、オレ子供?」
「じゅうぶん子供だ」
ほんとうはヒカルはもう16歳で、子供料金の年ではないのだが、十分中学生で通用する。ギンガムチェックのつぎが所々にあたったジーンズの上に同じデザインのミニスカートを履き、クリームイエローのセーター、それにフェイクファーのついたオレンジのダッフルコートといういでたちも、流石にヒカルを「男の子」には見せないものの、実際年齢よりも幼く見せるのに効果的だった。
首まわりにはなにもなくて、その細さがあまりにも寒々しく、つい自分のマフラーを貸し与えてしまったのだが、それに顔半分まで埋もれて満足そうな表情を見せるヒカルに、緒方は苦笑した。これでは、先程チケットの販売員が、「ご兄妹ですか?仲が良いんですね」と言われたのも道理だろう。……援交だと思われなかっただけ、幸いというか、何というか。

ヒカルは、何も知らずにもうすぐ乗る観覧車の光の洪水を見上げている。
クリスマスの夜に。
他にも誘いはあっただろうのに。
約束だからと、緒方のもとに駆けてきた。
……その意味を、目の前の少女は、まだ、何も知らない。
知らないくせに。



「ほら、緒方さん、もうすぐだよ」
にこりと笑って、ヒカルは緒方の手を引いた。


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平 知嗣 [HOMEPAGE]

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