珈琲と煙草

 上映一時間前。思ったより早く着いてしまった。
 映画館の前で新しい煙草の箱の封を切った。
 劇場前に設置された灰皿の前で、紙コップコーヒーと煙草と本。
 時が経つのが早い。
 奇しくも映画はジャームッシュの『コーヒー&シガレッツ』(2003米)。
 ひたすらコーヒーを飲み、煙草を喫む。11本のショートストーリー。
 ときには話題として、ときには気まずい間を埋めるアイテムとして。
 イギー・ポップとトム・ウェイツの会話が面白かった。
 「禁煙したんだ。だから心置きなく吸える」
 そう言い合って、二人は煙草に火をつけた。
 コーヒー&シガレッツ、最高の組み合わせ。異議なし。


 帰り道、車のなかで煙草に火をつけた。
 深く吸い込み、窓の外に吐き出す。母親が煙草の匂いを嫌うから。
 ワタシが煙草を喫むことを彼女は知っているけれど、彼女の前で吸うことには抵抗がある。仕方ない、そういう育ちだ。
 内科と皮膚科で同時期に「喉に異変は?」と聞かれたことを思い出した。
 内科はわかるけれど、なぜ皮膚科でも?
 喫煙者であることは言っていなかったのに。
 よくわからないけれど、因果関係があるのかも知れない。
 確かに時々鋭く痛むことがある。
 たくさん吸う方じゃないけれど、身体に悪いんだろうな。
 身体に悪いことはそろそろ辞めようと思っていたところだった。
 父親の命日に辞めようと決めていた。
 名残を惜しもうと思ってなんとなく決めた期日だ。
 簡単に辞められそうな気がしている。ただ辞めたくなかっただけで。
 スクリーンに出るひとたちがあまりにも旨そうにコーヒーを飲み、煙草を喫むので、やはり辞めたくなくなった。
 また深く吸い込み窓の外に吐き出す。缶コーヒーを流し込む。
 コーヒー&シガレッツ、最高の組み合わせだ。やはり異議はない。
 会話か本か音楽があれば言うことなし。なくても充分満ち足りる。
 うーん。
 父親の命日に辞めたとしてもトム・ウェイツみたいなことを言い出しそうだ。
2005年08月17日(水)

メイテイノテイ / チドリアシ

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