八月、終わる

 明日は父の命日、なので今夜は祭祀でした。
 17年目。もう面影が遠い。
 父の亡くなるときに立ち会えなかった。
 深夜、預けられていた母方の祖母の家で亡くなったことを聞かされた。
 妹とタクシーで実家に戻り、両親が帰るのを待っていた。
 「覚悟」というか、近いうちにこうなることは予想していた。
 その数年前「もう長くないから」と母に言われていたし、洗面器いっぱいに吐血していた姿もよく見ていたから。
 父を喪うことより、父を襲う苦痛が恐ろしかった。
 一ヶ月前の誕生日、母が代筆した手紙をもらった。内容より、もう自分で筆を持つこともできないという現実が「覚悟」を一層強いものにさせた。
 通夜でも火葬場でも葬式でも、涙を流さなかった。
 なぜだか泣いてはいけないのだと思っていた。まあ、なんとなく。
 深夜飲み騒ぐ弔問客の声を聞きながら、喪主席の隣でずっと正座をしていた。
 今日みたいに暑い日だった。


 今夜母は出かけていて、妹は嫁に。
 家にはおいらひとり。
 そのせいか、あの夜を思い出してしまう。
 日付が変わる前に誰もいない仏間でひとり、煙草に火をつけた。
 二本。
 一本は火立に、一本は自分に。
 もう煙草は喫まない。これが最後の一本。
 特に深い意味があって決めた期日ではない。まあ、なんとなく。
 遺影の父は入院する数年前。確か妹の入学式の記念写真。
 怒っているような、笑っているような表情。少し恐くなる。
 後ろめたいことがあったかな。
 とりあえず煙草に関しては怒られそうだ。
 父がいたら、一緒にお酒を飲めたかも知れない。
 それとも「女は飲むな」と言っただろうか。
 数年前の南北首脳会談を父が生きていたら、どんな心地で見ただろうか。
 栓のないことを考えてみる。
 長生きしよう、おいらは。
 いろいろ見て、いろいろ考えよう。


 八月が終わりました。



【八月鑑賞映画】
・『アイランド』(マイケル・ベイ/2005米)
・『コーヒー&シガレッツ』(ジム・ジャームッシュ/2003米)

 煙草をやめてみたものの、いつか『コーヒー&シガレッツ』のイギー・ポップとトム・ウェイツみたいなことを言いそうだ。
 そうならないよう心がけます。


【八月乱読覚書】
・「ブルース」(花村萬月/角川書店)
・「聖殺人者イグナシオ」(花村萬月/廣済堂)
・「ざ・ちぇんじ!」前後編(氷室冴子/集英社)
・「ジュリエットの悲鳴」(有栖川有栖/実業之日本社)
・「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(D.J.サリンジャー/白水社)

 「キャッチャー・イン・ザ・ライ」は村上春樹訳。するすると。
 高校時代に読んだ野崎孝訳はどうだったかな。
 サリンジャーは吉田秋生の「BANANA FISH」の影響で読んだんだと思う。
2005年08月31日(水)

メイテイノテイ / チドリアシ

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