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たまのひとりごと
たま
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2002年03月10日(日)
がんばったよ

今日は(実際は昨日から)嫌な予感がしていた。

母はますますろれつが回らないようになってくるし、事実と妄想の合間を漂っているのは相変わらずだ。
それでもメモをして、わたしが来た時に話そうと待っている母は童女のようである。
「今日はいっぱい話すことがあるの♪」といって笑う母の唇は荒れ果てている。耳も音は聞こえるが言葉の聞き取りがボアーンとして難しいので筆談を実施。(実はこれはおとといから。これで会話がグッと親密になった。なんでも聞いてあげなくてはいけない)
相変わらずの妄想が多いが、恐ろしい妄想だけはやんわりと事実を伝えると安心する。
「なんだか、悪いほうに考えてしまうのよね。。。」とつぶやいている。

だんだん、母はわたしの言うことだけを信じるようになり、他の人への不信感がつのっているようだ。

ノドが詰まるようだというので背中をさすってあげる。
何回も何回も。
病魔をわたしの手に吸い取ることができないか、何度も何度も。

消毒のうがいをなだめすかしてやっと終わったあと、疲れたから寝ると言う。
それからずっとよく眠る。
わたしも寝不足なので、ソファでたまに母の様子を見ながら仮眠。

トイレにたつときにふらつくのが怖いので、今日のように看護婦さんの少ない日曜日の夜なら、一度家に洗濯物を持って帰って洗濯機にかけておいて病院に戻ろうか。。と、考えていたとこだった。

母がトイレしたいので起こしてくれと言う。
いちにのさんでトイレに移動させる。
しばらく待ってもおしっこの音がしないので、「出ないの?」と言うと、「あ、寝ていたわ。黙っていたら起こしてね。」とにっこり笑う。
そのあとちゃんと用を足したので、ベッドのほうへ戻す。
下着を替えてくれというので、履き替えさせる。

痰がからむのか痰を出そうとしているので、「無理しないほうがいいよ。傷付けるから」と言うと、「そうやね。。」と答える。

そのあと!突然に母の口から血痰が溢れ出る。
あわててナースコールする!
「血を吐いています!!」
「すぐ行きます!」
「M先生呼んで!!」

バタバタという足音とともにナースが駆けつける。
母の口からはどんどん血が流れ出す。
膿盆をあてがい、ティッシュで拭いつつも、ただならぬ状況であるのは、母の顔色を見ればわかる。
「お母さん!今先生来るからね!!」

震えながらうなずく母であるが、半ば意識は朦朧としている。

ナースから「すみませんがこれからいろいろな処置をしますから外へ出てください。それから大変危険な状況です、ご家族のかたは?」
「家族はわたしだけです。」
「それでは、ご親戚の方に連絡を取って置いてください!」

ついに来たのか。
いったん戻らなくてよかった。
母のおしっこを待っていてよかった。

そう思いつつも、涙が止まらない。
部屋からはごぼごぼと吐血を吸引する音が激しく聞こえる。
おそらく夥しい出血なのだということは音だけでもわかる。
バタバタと走り回る足音。

ふと思い出す。
小学校の給食室の工事があった。
その間はお弁当持参となった。
朝寝坊の母は、「昼ごろぬくぬくを持っていってあげるからね」と言い、お昼前ごろに校庭に現れる。
受け取ったお弁当は、炊き立てのご飯で、揚げたてのから揚げや焼きたての卵焼きや昨日の残りのきんぴらごぼうが入っていた。
今で言うところのほか弁である。
それを食べながら、窓越しに戻っていく母の後姿を見ていた。

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主治医がわたしのところへ来て、もう延命の措置のみであることを告げる。
もう、止めてください。ありがとうございました。という。
部屋に入る。
血まみれの姿の母を見る。
可哀想で声もなく頬をなでる。
涙がなぜか出ない。
もういいのだ。うがいもしなくてもよい。
吐き気もしない。のども痛くない。妄想もない。

お母さん、さあ、家に帰ろう。