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■ 説得/ジェーン・オースティン
「この作品の後半第二巻は全部で十一章であったが、作者は話の結びがどうも些か単調な気がして気に入らなかった。そこで翌8月の或る日、思い立って第十章を書直すことにした。現行の第十章と第十一章がその書直した部分で、もとの第十一章が現行の第十二章である。こうしてホワイト・ハート亭におけるアンとハーヴィル大佐との会話、そしてウェントワース大佐の手紙による愛の告白と云う、イギリス小説の中でも指折りの美しい愛の場面の一つが書加えられることになった。」 ――訳者あとがきより
この作品は、これまでに読んだ『自負と偏見』、『分別と多感』、『ノーサンガー・アベイ』とは大きく異なるものだ。もちろん内容は他の作品同様恋愛の話ではあるが、主人公の性格、置かれている状況などが全く違う。 この作品の主人公アンはおよそヒロインとはかけ離れている。それなのに、私の中では最も心に残る、素晴らしい作品だった。上のあとがき抜粋にもあるように、「イギリス小説の中でも指折りの美しい愛の場面」があるためである。この場面では胸が熱くなり、涙ぐみさえした。そして最初ヒロインとはかけ離れていると見えた主人公のアンが、最後には最も素晴らしいヒロインになるからだ。
「ヒロインのアン・エリオットは27歳、今は亡き母親に似て、気立てがよく、控えめで親切で思い遣りがあり、優れた知性と豊かな感受性を併せ持ち、心も顔もともに魅力的な、ジェーン・オースティンが創造したヒロイン達の中でも最も善良な女性である。・・・あまり完璧な人物には読者はともすると退屈しがちなものだが、この作品の場合、読者にそう云う思いを抱かせないところ、流石はジェーン・オースティンである。逆にまともな読者なら誰でもアンが好きになるのではなかろうか。・・・『説得』はジェーン・オースティンの最も美しい作品であり、最も繊細な作品である、とよく云われる。デイヴィッド・セシル卿はそのジェーン・オースティン論(『詩人と物語作家』所収)で、この作品を「愛の交響曲」と呼んでその個性的な魅力を称えている。そこにはこの美しく繊細な作品の姿と味わいが見事に捉えられている・・・。」 ――訳者あとがきより
アンが若い頃に知り合い、結婚の約束までしたウェントワース大佐と、周囲の反対によって別れてから8年。忘れられない思いを胸に抱きながら、冷たい家族の中で物静かに暮らしている時、大佐と突然の再会をする。相手の気持ちもわからず、ただ幸せになってくれればいいがと願うアン。
どうしてここまで冷静な分別があるのだろう。もちろんアンとて冷静ではないのだが、周囲の状況をよくよく見極めた上で行動をしているのが、当初この人は自分の意志というものがないのだろうかとさえ思える。周囲に気を使うばかりで。だがそれはすべて、大佐に恥をかかせたくない、反対した当人たちに気まずい思いをさせたくないという一心なのだ。しかし最後には自分の気持ちを貫く。信じていれば必ず気持ちが通じると疑わず。なんて強い人なのだろう。 そして最後の「愛の手紙」である。あんなところであんな風に彼女の気持ちが報われるとは!まるで自分のことのように嬉しくてたまらなかった。
ロマンチックという言葉はいささか恥ずかしいが、なんてロマンチックなんだろう!そしてこんなロマンチックな話は、素直に美しいと思わなければいけないだろう。そして、この話が美しいと思えて、感動できた自分も嬉しい。 ああ、オースティンは面白い!さすが夏目漱石が激賞しただけのことはある。
2002年03月13日(水)
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