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2001年08月20日(月) ものの値段


 駅構内の片隅で、膝を抱えてしゃがんでいた愛ちゃんは、21歳という年齢よりもはるかに幼く見えた。座る彼女の前にはA-0サイズほどの布が広げられ、其の上にステップラーで留めただけの詩集が3冊と色紙が2枚、等間隔にきれいに並べられていた。目の高さで展開される世界は独特で魅力があるものだと言う。急ぐ足取りで通り過ぎる人、行く宛ても無いように重い足を引きずり過ぎる人、円陣を組んで地べたに座り込む女子高校生、煙草の投げ捨て、唾を吐き捨てる人、人、人。多くの人の集まる駅なのに、彼女の存在はその他のどれにも部類されずに独りぽつりと取り残されたようにも見えた。

 「値段は買ってくれる人に決めてもらってます。だから、1円って人も居ましたよ。」デジカメで撮った写真をプリントしそれを挿絵とし、カラーの文字で綴ったお手製の小冊。製本されているわけではないので、どれも微妙に色合いが違っている。ひとつの言葉を搾り出し、それに合った写真を選び加工してプリントしたものを一枚づつ折って重ねて綴じる。全てがひとつひとつお手製なわけで、それを展示して売る行為までも彼女の表現なのだろう。

 彼女の前にしゃがみ一冊手にとる。すると愛ちゃんは笑顔で座布団(小さなクッション)を勧めてくれた。ところがそれだけで、売り物に対しては自分からは勧めてこない。あたしの方がなんだか気まずくてアレコレ意味の無い質問をしたりして、その度に、ハキハキとした答えが返って来る。作ったものを見て手にとって頁を開いて見て欲しいのであって、少ない金額でも売れたらお小遣いになるという販売的要素がまるで無い。あたしはその手にして開いた一冊の中身も読まないうちから、一冊を作り出した愛ちゃんに興味が湧いた。その彼女が作ったものだそんな理由だけで俄然、欲しくなった。そして値段交渉。

 幾らでも良いと言われると本当に困る。思い入れ無くして作ったものではないはずなのは重々承知であるが、それを例えば1万円だと言われたらそこであたしがそれに対しての重要性があるのかと違う観点で思い留まる。そして1円だとすると(彼女から受けた印象でしか判断は出来ないが)少しだけ話をした彼女の感性を1円と判断するにはあまりにも安すぎるし。さて、困った。

 結局、大して膨らんでいない小銭入れの中身全部と交換した。彼女は、展示していた作品とは別のプラスチックのケースの中からきれいに畳まれた同じタイトルの一冊を選び、ジッパー付きの透明ビニール袋に入れてくれたものを渡してくれた。見ると裏表紙には彼女の顔写真とメールアドレスが記載されていた。

 ポエム。詩。
 なんだか、お尻のあたりが痒くて引いてしまうジャンルだけど、こんなものもあるんだなと思った。

 愛:21歳:A型:睨みつけた顔写真は、泣くのを我慢しているようにも見える。あんなすてきな笑顔だったのに、侮れない。


香月七虹 |HomePage