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2002年02月14日(木) バレンタインデーに何やってるんだか

 今日の垂流し文は、エグイのが苦手(嫌い)な方はご遠慮ください。
 明日は違うと思いますので、明日またお待ちしております(たまには許してね。)


 高さがストゥールと妙に合わない冷たい大理石の括りつけカウンターに、それらが厳か過ぎる程に丁寧に並べられた。
 「どうしてもお願いしたくて。」
 そういうものなのだろうか?と思いながら、まだきれいにパッケージされたままのそれらの包みを順に解いく。
 総ての包みを開け、中身が想像出来なかったものばかりだったので、そのまま無言で煙草に火を点けた。
 随分の時間が、並べられた道具を挟んで煙草の煙と一緒に流れた。

 「これだったら専用のお店でしてもらえば良いのに。」静な部屋の中でポツンと溜息混じりに言ってしまった。
 一言がくちから零れると、途切れることなく次から次へと相手の気持ちを逸らせようとする言葉ばかりを並べたのだが、相手は全く言葉と共に流されることなく、意気込みが増すばかりな顔つきで睨むように黙ったまま見つめてくるのだった。

 今がそんな気分でも無い時に相手の身体をどうこうしたって、何の面白みも感じない。そのことを相手は判っているのに自己陶酔の世界に入ってしまって出てこようとはしないのか。たぶん、そんな振りをしているだけで本当は以前から決めていた意志表示をしてるだけなんだろう。
 一言、厭だと告げたらそれでこの件については今回はお流れになるはずなのに、並べられた道具がスタンドランプに照らされて鈍く光って、その綺麗さにわたしは手に取って眺めていた。

 以前から、一度は専門のお店に行って商品を選びながら参考にしてみようとは思っていたけれど、まさか不意をついてその道具が目の前に並ぶとは思ってもいなかった。
 その不意打ちが口惜しいわけではないけれど、諦めたような態度で頷いてしまった。

 相手がシャワーを浴びている間に、備え付けのガラスのコップを洗浄液で洗った後に消毒用アルコールを満たしサージカルステンレス製のリングを沈め、用意したタッパーにも消毒液を注ぎ、9号ニードルを浸した。煮沸消毒をしておくとさらに安全性が高くなるのにと、少しばかり気がかりだったが。
 そんなことを考えながら、新しい煙草に火を点け大きく吸い込むと、どこかで楽しんでいる自分を見つけた。

 シャワーを浴び、消毒を待つ相手は備え付けのラヴチェアーに情けない姿でに座った。ところが情けないのは格好だけで、こころもち顔つきが清々しく見えたのは何故だろう。
 相手に対して膝まづくような体制をとり手の届く場所に、消毒液に浸されたままの道具を並べた。
 消毒液で手を洗い、その上から手術用のゴム手袋を嵌めその上で、も一度手を洗浄した。

 ハファダ(Hafada)の位置を確かめ、イソジンの原液で消毒している間も、反応を示すものなんだなあと思った。

 プツリという感じよりは、ザクザクとした音の表現の方が確かかもしれない。思った以上の力が必要で、裁縫用の指ぬきが欲しいと思った。指で摘めばそれほどの厚みが無いところでも、身体から排除されにくい場所を考慮した場合、想像以上の距離をニードルが入って行った。貫通する時にも刺し始めと同じように強い力が必要だった。
 ニードルの針先が頭を出した部分に、コルクを押しつけ曲がらないように押し込む。(フォーセプスForcepsが手元に無いのでこれで代用した。)

 ニードルを引きながらキャプティブ・ビーズ・リング(Captive Bead Ring )を挿入し、思ったよりも出血も少なく無事に装着することが出来た。
 「終ったよ。」道具を片付けながら声をかけると、うっすらと上気した顔つきで、しかし目には涙を溜めていた。
 痛かったのだろうか。だったら、痛いかと尋ねた時に答えれば良いものを。
 手袋を外し、道具のひとつひとつを洗浄しながら二言、三言声をかけたが相変わらずの体制で相手は動こうともしない。
 バッグから手鏡を探し、相手の肩を叩いてそれを手渡し、たったいま貫通したものを見るように勧めた。
 相手は上気したままの顔つきで、手鏡にそれが映るような体制をとると、またポロポロと泣き出した。
 「今ならすぐに排除できるよ?どうする?」そう尋ねると、頭を大きく左右に振りそれが嬉しくて感動した涙なんだと教えてくれた。
 ピアスにそういう思い入れがあるのだろうか?と意地悪く尋ねることを、今だけは避けようと思った。



 医師法ということを引き合いに出せば、医師免許を持っていない人がこのような外科的な施術を行うことは、違法行為になる。それはもちろん頼んだ人ではなく、おこなった人が罰せられる。ごめんで済めば、警察は要らない。



香月七虹 |HomePage