short story


2001年02月14日(水)


24-散らばった雲-
「ところで…」と彼が話題を切り出した。
「お前にもなんか彼女ができたらしいって話聞いたぞ?ん?」
今度は彼がニヤニヤしている。こいつ。仕返しか。
僕は正直に、彼女はいない。と答えた。
しかし彼は、
「嘘つけ。同棲状態だって人づてに聞いたぞ。どんな人なんだ?白状せい。」
まったく、どこづてに聞いた話なのやら。
しかも妙に正確な情報だったので
一体どこの情報網だ?と一瞬、本気で考えてしまった。
彼は僕の弁明など聞く耳持たずで、次々に質問を浴びせ掛けてくる。

僕はあっと言う間に身動きがとれなくなっていた。

この質問。
この問いかけこそ。
もっともされたくない質問であり、
ある意味、長い間待ち望んでいた質問でもあった。
僕と彼女との関係の
核心をつく。
言わば、ふわふわ浮かんで散らばった雲の
名前を聞き出すような質問だった。

「出身はどこの人なんだ?」

「なんの仕事してるんだ?」

「いくつ?」

「名前はなんて言うんだ?」

彼は無邪気に尋ねる。

この質問に、答えられたなら
どれだけ幸せだろうと思った。
僕には大切な女性がいる。
彼女はこんなにも素晴らしい人なんだと
この親友に教えてあげられたらどんなにか幸せだろうと思った。

でも。でも僕は。
彼女の出身……。

仕事…。

歳も。

名前さえ……僕は知らない。

知らないんだよ……。

………………知らないんだ…………。

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日記才人