short story


2001年02月17日(土)


27-忘れっぽい慰め屋-
彼女は、数瞬、僕を見つめた後
また何事もなかったかのようにすすり泣き始めた。
こういう時って男はどうしていいか分からないもんだ。
なんて声をかけていいやら。
僕はとりあえずハンカチでも差し出そうと思ったが
自分はハンカチなんか持ち歩かない人間だということに気付く。
ん〜。どうしたもんか。

とにかく、彼女をそのままに放っておくわけにもいかなかったので
落ち着くまで少し彼女についていようと思った。
それで僕は、なにも言わず彼女の横に腰掛けた。

そのまま、どれくらいの時間が経っただろうか。
僕は時折、彼女の様子を窺いながら
煙草をふかしたりなんかしていた。
風が気持ち良かったのを覚えている。
星も出てたっけ。

次第に彼女は落ち着いてきて、すすり泣きも聞こえなくなった。
ほっと一安心。
別になにをしたわけでもないけど。

ふいに彼女が口を開いた。
はじめて聞く。彼女の声。
泣きつかれたかちょっと震えていた。
「どうしてなにも言わないの?」

「んあ?」
思わず間抜けな返答をしてしまった。

「普通こういう時って、どうして泣いてるの?とか聞くものじゃない?」
鼻をすすりながらこう言った。

僕は彼女に言われて自分でもはじめて気がついた。
あ。そうだ。俺、泣いてる理由も聞いてないや。
おかしな話だろう。
泣いている女性に近づき、話を聞いて慰めるのかと思いきや
無言で横に座ってただぼぉ〜っとしてたのだ。

僕は素直に
「あ。忘れてた。」と言うと
彼女は、ぷっ、っと吹き出して笑い出した。
僕もつられて笑った。
なんか可笑しかった。笑ってくれて嬉しかった。
今だけでも元気にさせてあげられて良かったと思った。
思った通り彼女は可愛らしい笑顔をしていた。

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日記才人