short story


2001年02月22日(木)


32-原点-
僕は彼女になにも聞かなかった。
なぜ僕について家にまで来たか。とか
初対面の男の家に入るのは怖くなかったのか。とか
泣いていた理由も聞かなかったのだから
名前も聞かなかったし、なにも聞かなかった。
半分は、どうせもう会うことはないだろう。と思っていたのと
もう半分は、そういう個人的な事を聞くのは
ルール違反であるような気がしたからだ。

なぜなら
あの奇妙な関係は、お互いがまったく面識のない事で成り立っていた。
自己紹介し合ってしまったら
その「奇妙さ」が損なわれてしまうと思ったのだ。
あの時の僕にとって重要なのは
彼女の名前やなんかではなくて、
あの「奇妙さ」を楽しむことだった。

だから、もう会うことはないだろうと思っていた彼女が
3日後、再び僕の家を訪れても、
僕は、なぜまた来たか?などとは聞かなかった。
なにも聞かなかった。
そしてまた彼女も、なにも言わなかった。

それが僕と彼女の出会いであり、原点となった。
二人の。距離に。

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日記才人