short story


2001年02月23日(金)


33-底無し沼-
彼女と過ごした4ヶ月。
もちろん彼女に名前を聞こうと思ったことは何度もあった。
でも、できなかった。どうしても。
時間が経てば経つほどに。
彼女の存在が僕の中で大きくなればなるほどに。
言い出せなくなっていった。

だって聞けないでしょう?
それが始まりだったんだから。
彼女の方も、自分の事はなにも話さなかったし
僕についても多く聞かなかった。
つまりそういう関係を彼女は望んでいるのだ。
聞けないよ。
聞いたらどうなるか…。

まさかこんなことになるとはなぁ。
思ってもみなかった。
彼女との出会いの理由が
彼女を失う理由になりかねなくなってしまうとは。

彼女になにも聞かなかったから彼女との関係が始まったのに
彼女について知ろうとしたら彼女を失う。か。

ふと気がついたら底無し沼にはまってしまっていたような。
そんな気分だった。

分かるだろうか。
理解してもらえるだろうか。
僕が彼女についてなにも知らなかったわけ。
なにも聞くことができなかったわけ。

僕は4ヶ月間ずっと、底無し沼でもがいていたのだ。

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日記才人