好き?俺を? 今、好きだと言ったか? 俺のことを好き…。好き…。
その言葉を理解するのに、時間がかかった。 理解した後も、身動きが取れなかった。 どう答えていいのか分からなかった。 どうしてこう彼女は、次から次へと僕を驚かすのか。 あまりに唐突なセリフだった。
もちろん僕は彼女のことが好きだったから それは長い間、望んでいた言葉だったけど 同時に、彼女は絶対に使わないだろうと思っていた言葉だった。
だから、嬉しいと思うより先に 彼女の口からそんな言葉を聞いたことに驚いていた。 絶対におかしかった。 普段の彼女ではないと思った。
長い沈黙。 僕が言葉を選びきれないでいると 彼女は続けて口を開いた。
「私の名前は…」 「やめろ!!」
僕は思わず彼女の言葉を遮った。 ほとんど反射的に。無意識で。 電流のように、体中に恐怖が駆け抜けたのが分かった。
僕は止めた後で、あらためて事の重大さに気付いた。 彼女は……自分の名を名乗ろうとしている…。 僕に。自分の名前を…。
息ができなかった。 なぜ。今頃になって名前を…。
怖かった。 聞いてはいけないと思った。 その名前を聞いてしまったら。 もう彼女は2度と僕の前に現れないような気がした。 彼女の名前は、きっと別れの言葉なのだと思った。
だから、彼女がもう一度 「私の名前は…」 と言っても。
「言うなっ!」
僕は迷わず止めた。 聞きたくなかった。
聞きたくなかった。
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