short story


2001年03月02日(金)


40-臆病者に愛-
ほんとうに。
僕は。
耳を塞いでしまいたかった。
聞きたかったけど、聞きたくなかった。
知りたかったけど。
知ってはいけないと思った。
どうして彼女がそんなことを言い出したのか分からなかった。

僕は彼女から目を逸らすことができずにいた。
じっと僕を見ていた。
穏やかな表情で。
僕はきっと、脅えるような目をして彼女を見ていただろう。
彼女はどういう思いで、僕を見ていたのか。

やがて再び彼女が口を開く。
「名前を……呼んで欲しいの。」

僕は彼女の言葉を、何度も頭の中で繰り返して
彼女の言いたいことを知ろうと懸命だった。
脅えている場合ではなかった。
今は軽はずみな言葉を吐いてはいけない時だ。と悟った。
一体、どういうつもりなのか
必死になって考えた。

僕はベッドに座ったまま
動くことすらできなかったけど
頭の中だけは、冷静になるよう努めた。

慎重に。慎重に言葉を選んで
そしてゆっくり、噛み締めるように聞いた。

「どうして……、今になって?」

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日記才人