short story


2001年03月03日(土)


41-癒しの抱擁-
彼女は僕の問いには答えなかった。
その代わりに
静かに僕に歩み寄って
隣に座った。

そしてそのまま僕にくちづけをした。
金縛りにあったように動けなかった。
なにがなんだか分からない。
頭の中からすべての言葉が消えてしまっていた。

されるがままに。
彼女の抱擁を受けた。
僕は操られるように
ゆっくり彼女を抱き寄せた。
それはしたくともずっとできずにいた行為だった。
彼女の髪の毛に顔を埋めると、シャンプーの匂いがした。
なぜか、力を入れ過ぎないようにと気を使った事を覚えている。
そんなことよりも、彼女に聞くべきことがあったはずなのに。
弱々しく背中に回す彼女の腕が、くすぐったかった。

無言でくちづけ。
長い。くちづけ。
彼女の唇は、柔らかく、少し冷たかった。

僕は頭が真っ白で
馬鹿みたいにぽーっとしてた。
行動と思考がまったく一致していなかった。
どちらも、自分の支配を離れてしまったように
勝手に僕を動かした。

彼女はしばらく僕の胸に頬を寄せ、
僕はただ彼女の髪の毛を撫でることしかできずにいた。

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日記才人