目が覚めると もうそこに彼女はいなかった。 かすかに、匂いがした。 ベッドに 温もりはもうなかった。
昨夜のことを思い出す。 夢だったのかも知れない。とも思ったけど。 うっすらと残った記憶はその淡い希望をすぐに打ち砕いた。
目に涙が溜まって前が見えないような記憶。 ぼやけて。よく見えない。見たい。 そして見えている。 僕の願望と真実が同居したような記憶だった。
意識がはっきりし始め、 残酷な現実が緩やかに歩み寄る。
なぜ彼女は 僕を好きだと言ったのか。 僕に抱かれたのか。 僕はどうすればよかったのだろうか。 脅えずに名前を呼んでいたら 彼女はまだここにいただろうか。
疑問と後悔。 正しい道は 僕の目の前にあったのだろうか。 それでも僕は選ぶことができなかった。 彼女の求めに 気付くことができなかったのかもしれない。 結局、最後まで 彼女の名を呼ぶことはなかった。
そして もう彼女は 僕の前に現れることはないんだと 静かに確信した。
その時ようやく。 涙が落ちた。
それはあまりにも遅いだろう。
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