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2003年02月18日(火)

前略 れいこ様

スペインに来た。
マドリッドの「125ホテル」から書いている。
こちらはまだまだ寒くて、
ファーコートの婦人をよく見かける。
男はくたくたになったレザーのジャンパーを
かっこ良く引っ掛けている人が多い。



君は元気だろうか。

突然のエアメールに、驚く顔が目に浮かぶよ。
(それとももう僕のこういう傍若無人ぶりにも、
すっかり慣れて免疫が出来たのかな。
それもつまらない)

実は夜汽車で、京都まで行くつもりだったのだけれど、
突然気が変わってしまった。
金沢まで例の少女を送り届けて、
それから成田に戻った。

彼女には結局、何も聞けずじまいのまま、
向こうが話す他愛のないおしゃべりだけが時間を埋めた。

ジャンリュックゴダールの映画では居眠りをしてしまう、とか、
あなたの鼻はゲンズブールに似てるわね、綺麗よ、とか
これといって広がりようもない話題だったように思う。

でもなかなか面白かったから、へえそうなのと聞いていたら
朝になってしまった。
結局二人とも一睡もせずに。

僕は窓の中から「さようなら」と丁寧に口を動かし、
手を降って別れた。

胸踊る瞬間も、人と人との素晴らしい出会いも、
語り明かした夜の、あたたかい息で曇った列車の窓も
こうして通り過ぎ、時を経て、なくなってしまうのだ。

こうして通り過ぎ、時を経て、なくなっていくことで
僕はまた新しいことを始められる。

それをとても、自由だと思う。



太宰は今、「物思う葦」を読んでいる。

スペインを選んだのは、
コスタデルソル(太陽の海岸)という地方を訪れてみたいと
長年思っていたことが理由と言えば理由だ。

しかしまあ、僕の場合(君も知っての通り)行動の殆どが思いつきだからね。
幸い航空券もすぐとれた。

この国は、カトリックのせいか日曜の安息日を厳格に守る。
うっかり土曜に買いだめを忘れると悲惨だよ。
通りの商店がすべてシャッターをおろしてしまう。
僕のいるホテルはマドリッドの中央広場に面して建っている、
つまり思いきり中心街の筈なのに、そんな調子だからね。

ホテルといっても素泊まりだけの安いユースホステルだから、
食事は自分で作る。

今日(土曜)は10時頃にもそもそと起きて、買い出しに出かけた。
大型のスーパーはないから中央市場に。
野菜、肉の塊、生ハム、それからオレンジをたくさん買った。



ビーフストロガノフ。

どうしても煮込んだ甘いにんじんが食べたくなって、
2時間くらいことことやってたよ。
半日をビーフストロガノフづくりで潰すっていう日も
人生でそうあるものではない。

「あなたはそうやって、好き勝手に生きられて
やろうとしたら才能もあって、でもやろうともしないでずるいわ
私みたいにやりたいやりたいと言って、
痛々しくもがいてるのが馬鹿馬鹿しくなる」

君が言った言葉が忘れられないけれど、
ビーフストロガノフの僕を見られたらあまりに無益なことばかり悠長にやっているから、
また怒られるのかもしれない。



明日は、ウフィッツィ美術館を一日かけて巡るつもりだ。
こちらは田舎に行くと英語が通じなくなるようで、少し心配している。



なんだかひとりよがりな話になってしまった。
申し訳ない。
君の日常も、聞かせてほしい。
私のはつまらないから、って良く言うけれど
そんなこと思うのならはやく出家でもしたらいい。

隣の部屋にアメリカ人のバックパッカーのカップルが
チェックインした。
人との出会いがあったら、また書くつもりだ。



草々


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