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2003年02月19日(水)

拝啓 王子様

春の足音が聞こえてまいりました。
一年で一番、ボーダーTシャツが着たい季節です。

お元気ですか?



私は相変わらず、雀の泣き声だけが響く田舎で
時を過ごしています。

田んぼの中を帰ってくる中学生の制服姿が
映画「ユリイカ」の映像と重なります。
目に写るものは白と黒。

静寂と退屈の中にこれほどの狂気が潜んでいる。
青春とは
熱さ、血、笑い、涙、汗、それらとすべて無縁の
ただの窮屈さだ(私にとってそうだったかもしれない)と
ここに来て感じました。



古本屋には毎日出かけます。

私は開店から閉店まで、フルタイムで働くようになりました。
レジ打ち仕事もお客さんの数も、
毎日会う彼の透けるような白い肌も、
変化なく淡々と連続していきます。



「空腹だっていう共通前提の上に、
今僕らは完全に分かりあえると思わない?」

ある日の閉店後、彼がいった一言がきっかけで
私たちは夕食を共にすることになりました。

駅の反対側にある『ミキノヤ』という洋食屋。
オムレツ定食を看板にしているお店で、
ほとんどのメニューが500円程の良心的なお店です。

(そうえいばあなたと良くいったのも、洋食やさんだったわね。
私はフレンチやイタリアンの逢引に縁がない女の子なのかしら)



「君は料理が得意?」

「どうかしら、他の人に食べさせたことがないから分からない」

「手料理で大切なのは手際の良さだよ。
うまさなんて大して変わらないさ、日常の三食では。」



彼はまるで今までたっぷり溜めていたんだ、
というくらい色々なことを話すのに
言葉ひとつひとつはまるで
本当はなかったかのように空気に吸い込まれて消えてゆきます。

本人ももう一度思い出すことは絶対にない、というような儚さで。

美しい音楽にのっている、英語の歌詞のように、
そこからは涙の出そうな何かがが伝わってくるのに、
本来の言葉としての意味は、全く為していないのです。



「君は手際が悪そうだな」

悪戯っぽく言った彼に、私は「ふふ」と声を出して笑い
失礼だわ、という顔をしました。



AMのラジオからは天気予報と、
「こどもからだ相談室」が流れていました。



あれから私たちは毎日、
一緒に夕食を食べて帰るのが日課になっています。
特別なこと、具体的なことは何も話しません。
彼が何処に住んでいるのかさえ、知りません。

休みの日の彼は
ニューヨークでギャングをやっているかもしれないし、
アフガニスタンでNGO活動をやっているかもしれない。
東京ドームで歌っているかもしれない。

それは私にかかわりのないことです。
それはわたしにかかわりのないことなのでしょうか。



他愛のないことを長々とごめんなさい。
古本知識が、蓄積されたらあなたにも紹介するわね。

ではまた。

かしこ



れいこ


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