前略 王子様
変な咳がでます。 私はSARSにかかったようです。 残された時間であなたに手紙が書けることを幸せに感じます。
思えば短い21年間でしたが 何の悔いもありません。
あなたが見た「世界」の片隅に、私は入っていたでしょうか。
山手線を待つ朝 部屋に帰って冷たいお弁当を開く時 缶ビールのお金を払う瞬間 村上春樹を読みかえし タクシーから降りる深夜 誰かに振られて泣いている部屋の隅 ベッドであの曲を聴きながら 誰かの仕草の向こう側に
私が不在のままでも 「世界」は続いてゆきます。 もしお時間があったら病院に果物をむきに来てください。 ピンクグレープフルーツが好きです。
かしこ
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