「どうしてこんなに大変なことがあるのに、続けているんですか?」 仕事でアルバイトさんのインタビューをするとき、しばしば問いかける。仕事には苦労する点やつらいことがあるのに続けているからには、必ずそれを補ってあまりある喜び、やりがいがあると信じているからだ。相手は戸惑う。そしてたいてい、「うーんなんとなく」と答える。私は苛立つ。
NHK『サンデースポーツ』の「インサイド」というコーナーで、出羽の郷という力士のドキュメンタリーをやっていた。今場所、戦後最年長の34歳で十両に昇進。初土俵から114場所め、異例のスロー出世でようやく「関取」となった人だ。
ほんの15分ほどのVTRだったが、彼の人柄がよく伝わってきた。控えめで、驚くほど欲がない。いい笑顔をする。中学卒業後に出羽乃海部屋に入門してから、彼は今までに9人の後輩に先を越された。自分より年下の力士の付き人を、ずっと続けてきた。生まれ育った街、日本橋の小学校によく顔を出すという。自分が子どもの頃、相撲が好きだったという純粋な気持ちを思い出すためだそうだ。
テレビを見ながら考える。どうして辞めずにこられたんだろう? 奥さんの支えがあったのだろうか。死んだ父との約束か。しかし、期待とは裏腹に、感動の物語は特にないようだった。負けて負けて、たまに勝つ、そうしてなかなか昇進できずに腐りかけたりまた立ち直ったりする日々が114場所。付き人としての生活。彼はそれを生きてきたようだった。淡々と。
私は欲のかたまりなので、彼のような人生を理解できない。勝てない試合ならしないほうがましだ。
出羽の郷は、あまり強くない。関取としての初日、今日も負けた。勝ち越さなければ、また十両から落ちてしまう。私は、苛立つ。
しかし、取り組み後の彼のインタビューを見て、私は口をぽかんと開けてしまった。じんわりと温かい涙が体の奥からこみ上げてきて、流れずに目頭にとどまった。この人を見るために、国技館に行きたいと思った。 「1週間、1週間を4勝3敗、4勝3敗でいきたいですね。ペース配分を考えて、疲れを残さないようにしたいです」
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