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2005年08月08日(月) 王子様への手紙

前略王子様


残暑お見舞い申し上げます。
昨日だかおとといで暦が変わったから
こんなに暑いのにもう「暑中お見舞い」ではないのだそうです。

蝉の鳴き声を聞きながら市ヶ谷のお堀端を歩いて毎日通勤しています。

あらゆる締め切りが順番にやってきて
あっちの構成案を提出しながら
こっちの原稿を書くといった具合で
何かをあまり考える暇もなく仕事をしています。

昨日、NHKの深夜番組を付けたら
ヒロシマの映像を流していました。
それと、今日から甲子園が始まりました。
私は夏が大好きです。

あなたはどうですか。
夏バテしていませんか。

7月の末に、神楽坂のお祭りに行きました。
午前中会社のスタジオで撮影をして、大急ぎで家に帰って浴衣を着て
下駄で走っていきました。

駅に着いたら、数分前にあった地震で電車がとまっていました。
「困ったね」と口では言いながらあまり困ったこともなく
すたすたと30分ほど歩きました。

学生時代に九段下でアルバイトしていた頃から良く歩いた道だったから
なんの迷いもなく、
自分はとても自由だと思った。

お祭りは、地震で誰もいないかと思ったら意外に人が集まっていて
(みんな歩いてきたのだろうか)
毘沙門天の前で「やっこさんやっこさん」と
阿波踊りを踊る人たちを見ていました。

一緒にいた人が写真を撮ってくれた。
とても良く撮れていて驚いた。
自分なのに、自分ではないような笑顔をしていた。

水上のカフェからお堀の向こうを眺めたら
水の上を電車が走っていった。
「沼の底」に向かう電車のようだった。
私は「あ」「あ」と顔なしの真似をした。
相手は笑ってくれた。

夏になると、あなたに教えてもらった『LONG SEASON』という曲を思い出します。
もう一度涙を流し、誰かのことをくまなく聞きだし、
伝えられる限りを尽くして自分のことを知らせ
近づいたり離れたり、胸の骨を触り
突然興味がなくなり、飽きたそばからまた執着する。
くだらない繰り返しを、もう一度できるだろうかと考えながら、
電車ではジュンパ・ラヒリの『停電の夜に』を読んでいます。

『停電の夜に』は、ある出来事がきっかけで関係が冷えてしまった
夫婦の話。
ラヒリの書く人間達はとてもリアルです。
だから、彼女の小説は先が見えません。
「分からないまま終わらせるんだろう」と想像したり
「きっとこういう落ちだろう」と分かってしまっても
私はそれらの作品をダメだとは思ってきませんでした。

しかし、ラヒリの文学を読むと
そうして読者に「想像の間」を与えようとする小説が
いかに想像力の貧困な筆者により書かれているかを考えさせられるのです。

解決しない問題を、ラヒリは置き去りにしません。
悲しみを悲しみという文章にして
我々の肌にじっとりと塗り込んできます。

また抽象的な文章になってしまいましたね。

あなたのこの間言っていた
ホワイトアルバムの歌詞の件、とても感動しました。
また後日、それについては書こうと思う。

お返事が遅れてしまったことをお許し下さい。
いつもあなたのことを考えながら
窓から夜空を見上げています。


かしこ








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