罅割れた翡翠の映す影
目次|過去は過去|過去なのに未来
人間らしさとはなんだろうね? 他人の幸福と一時の享楽の為に懇親的に活動する姿はそうだろうか。 また、欲望と本能のおもむくまま傷つけあう姿もそう思える。 人という存在を救い在るものと見なすか否かで変わるものではあるだろうが。
ところで、現ホスト人格である缶太郎の考えならば、 『矛盾と不完全に悩みながらも足掻くもの』 が人間らしく生きると言う事なのだろうかね。 足掻かないならばそれはのたれ死んだも同然、 悩まぬならそれは意志ある生物ではないのだろうね。
ならば僕は既に人間らしさを失っている。 その事に何ら感慨が沸くことも無い。 ミーシャやミノルは、その事に気付いた時に酷く絶望していたが。
悩みなどせず、目的のための最良手段を選び、躊躇無く実行する。 足掻く位しか出来ない状況でも、滅びる寸前まで手段を遂行するだろう。 滅びに対する恐れも、感慨も無く。 時として目的が最悪の方向に向かっていたとしても。 インプットされたプログラム通りに動くだけ。
『機械のような人生なら、生きているとは言えない』 と言ったのはミノルだったか。 自らこそがその機械のように育て上げられてきたからか。 中途半端に目覚めた人間性は彼を半永久的に眠らせたが、それでも幸福だったか。 機械のように命令を聞き続けて生きる生は何故幸福たり得なかったのか。
自由が欲しかったのか。 その代償に孤独を噛み締めても。 己の存在の主張のために。 精神を砕いてまで、自由に生きたかったのか。
もうすぐ、あの日が来る。 最初の奴が、この身体が、桜の木の下に揺られた日が。 僕らが、始まった日が。 安易な、そして確実だったはずの逃走手段を実行した日。 思えば、あの時既に僕らは壊れていたね。 覚えているのは、僕だけ。 思い出しても何の感慨も沸かせない、機械の僕だけ。
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