橋本裕の日記
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2000年12月22日(金) 不眠の恵み

 私は寝付きがよい。枕に頭を付けて、たいがい5分以内に眠りに落ちる。この話を人にすると、たいていの人はうらやむ。しかし、そんな私にも弱点がある。夜中に目が覚めて、眠れないことがよくあるのだ。

 たとえば、昨晩、私は10時前に床についた。一日の疲れがでて、それこそ頭を枕に付けてた瞬間、もう意識がないという具合だった。ところが、間が覚めたのは夜中の12時過ぎ。がっかりである。これが朝の4時とか5時だったら、それこそ理想の睡眠パターンだが、最近はまずこうした幸運な眠りに恵まれることはない。

 それから、どうにかまた一眠りしたが、熟睡したわけではなく、いやな夢を一ダースほど見た。たとえば、頭上から飛行機が火を噴いて落ちてきて、その残骸の破片や車輪が火を噴いて飛んでくる中を逃げまどうというあまりありがたくない夢である。これなど現在私が置かれている危機的状況を夢が再現して見せたものだと考えられる。

 そんな悪夢にうなされたあげく、2時に再び目が覚めてしまった。5分、10分たっても、もはや眠れそうにない。そこで、私は眠ることを断念して、いつものように空想の世界に自分を誘うことにした。つまりこの機会に短編小説の筋立てをひとつ作り上げようという訳である。

 主人公が外出から帰ってくる。すると玄関口に女もののハイヒールが脱ぎ捨てられてある。妻を失って一人暮らしをしている主人公には大学生の娘がいる。しかし、娘は家を出て、一人で暮らしている。あまり父親と仲が良くない。その娘が帰ってきたのかと、男は胸騒ぎを覚えて家に上がるが、家の中に人気はない。まずはこうしたミステリアスな場面から始めてみた。

 話の筋をいろいろ考えているうちに、まとまるときもあるし、そうでないときもある。まとまってもつまらない駄作の場合が圧倒的に多い。しかし、ときにはこれと思う筋立てが出来るときもある。今日は幸運なことに、気に入ったエンディングにまでたどりついた。最後は自分でもちょっと感動して、布団の中で目頭が熱くなった。この冬休みのうちに、なんとか書き上げて作品として完成させたいと思う。

 そして時計を見ると、3時を少し過ぎている。そろそろ床を抜け出してもよい時刻である。睡眠時間は結局正味4時間に満たないことになったが、これはいつもよりもいくらか短めだが、このところ文学の神様に見放されていて、久しぶりに短編小説のプロットが出来たのだから、まあ満足しなければならない。

 こういう訳で、私が小説の筋立てを考えるのは、ほとんど不眠のとき、眠られぬベッドの中でだ。だから皮肉なことに、むしろ身辺が落ち着かず、不眠症気味の時の方が、小説がよく書ける。最近では2年前、やはり一年生の担任をしていて、クラスが荒れていた頃が創作活動のピークだった。そして担任を外れてわりあいのんびり出来た去年は、結局一本も書けなかった。

 今年は再び1年生の担任をしていて、いよいよ前途多難な時期を迎えようとしている。運命が与えてくれたレモンからいかにおいしいレモネードが作り出せるか、これからが正念場だとも言える。故郷の越前海岸ではいまごろから水仙の花が咲き始める。風雪の断崖に咲くこの花のように、私も厳しい北風の吹きすさぶ逆境の中にこそ、香り高い作品を書くチャンスがあると思っている。


橋本裕 |MAILHomePage

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