橋本裕の日記
DiaryINDEX|past|will
正月の楽しみの一つに、ビデオで映画を見ることがある。昨日はマーク・ロッコ監督の「告発」(1995年、米)を見た。アルカトラズ刑務所が閉鎖されるきっかけになったヘンリー・ヤング事件を映画化した作品だが、なかなか見応えがあった。
ヘンリー(ケビン・ベーコン)は些細な盗みから島の刑務所に送られ、その地下牢に収監された。彼は経費獲得のために集められた囚人の一人だったが、脱走しようとして捕まり、特別の地下牢に入れられ、3年以上に及ぶ虐待を受ける。そして、地下牢から出てきた日に、彼は地下牢へ入るきっかけとなった裏切り者の囚人を殺してしまう。
国選弁護人として彼の弁護をすることになったのは、大学を出たばかりで、これが初仕事だという新米弁護士のジェームズ(クリスチャン・スレーター)である。彼は上司から「猿にでもできる仕事だ」と言われる。第一級殺人事件として、被告人の有罪と死刑は疑いようがない。
ジェームズはさっそくヘンリーと面会するが彼はかたくなに心を開かない。そのうちジェームズはヘンリーが非人道的な虐待を受けていた事実を知る。ジェームズは怒りを覚え、法廷で「殺人犯は他にいる」と発言する。そして彼は非人道的な刑務所自体を告訴する。刑務所の所長はアメリカ政界の黒幕と目されるフーバーFBI長官の息のかかった人物である。マスメディアがこれを取りあげ、ここからアメリカ全土を巻き込んだ大騒動がおこる。
正義を貫くために、国家の悪に対決し、そのために職を解かれそうになりながらも、あくまで周囲の圧力に負けずに果敢に孤独な戦いを続ける正義感に燃える若い弁護士のジェームズ。恐怖の体験から心を開かなかったヘンリーも次第に本音を語り始める。しかし弁護士のジェームズが最後に直面したのは、なんと彼が弁護する当人のヘンリーの反抗だった。
彼は裁判に勝って、3カ年の刑に服するぐらいなら、死刑になった方がいいので、法廷で自分の有罪を認めたいと言い出す。こうして最後の法廷は裁判官や陪審員を前にして、弁護士と依頼人が対立するという前代未聞のありさまになる。しかしそうした土壇場での弁護人と依頼人との本音のやりとりが、かえって刑務所の暴虐な悪の実態を浮かび上がらせ、陪審員たちの良心に鋭く訴えかけることになる。
自分の信念と良心を貫いて巨悪に戦いを挑む弁護士は、アメリカ映画ではおなじみのヒーローである。国家や組織に埋没しない個人の勇気と良心を尊ぶアメリカの一面がよく現れている。しかしこの映画の真のヒーローは服役囚のヘンリーであろう。彼は最後に服役の恐怖を乗り越えて、真実を語ることになる。
そしてふたたび彼が告発した刑務所の恐怖の地下壕へと帰り、そこで彼を待ちかまえていた副所長の虐待によって命を奪われる。しかし彼の犠牲は無駄にはならなかった。1963年、アルカトラズ刑務所の完全封鎖の声明に際し、時の司法長官ロバート・ケネディはその理由にヘンリー・ヤング事件を上げている。
この映画は、「殺人には死刑を」という私の主張からすると、その主題の扱い方に若干の疑問がのこる。刑務所での非人道的な虐待はあってはならないが、しかしヘンリーは殺人犯として、厳正に処罰されてもよいのではないか。それはともかく、悲劇の主人公を演じたケビン・ベーコンの迫真の演技には思わずうならされた。
|