橋本裕の日記
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2001年02月23日(金) フォロー・ミー

 友人の北さんにすすめられて、「フォロー・ミー」を観た。監督は「第三の男」のキャロル・リード、脚本は「アマデウス」のピーター・シェイファー。結婚して頻繁に家を空けるようになった妻ベリンダ(ミア・ファロー)に会計士の夫チャールズは不審を懐き、私立探偵に妻の身辺調査を依頼する。

 ところがこの私立探偵というのが一風変わっている。堅苦しい依頼人とは正反対の、クレージーで型破りの人物。そして依頼人の奥さんを10日間追い続けるうちに、いつか二人の間に心の交流が生まれる。

 二人は一言も言葉を交わさずに、街を歩き、動物園や植物園を歩き、映画を見る。ときには私立探偵の方が彼女の先を歩き、おどけたしぐさで彼女の笑いを誘ったりする。彼女は不倫をしていたわけではなく、結婚して仕事や世間的な交際にしか目が向かなくなった夫に失望しながら、息苦しい家をはなれて、ただ満たされないまま彷徨っていただけだった。

 彼女は夫に追求されて、いつも自分の連れをする奇妙な男のことを話す。甘いものに目がなく、白いおかしなコートを着て、白いスクーターを乗り回している道化役者のようなおかしな人物。はじめは警戒していた彼女も、やがて彼とともに過ごす時間を楽しんでいる自分に気付く。そしてどうやら、その男も彼女に好意以上のものを抱いているらしい。

 この事実をしって、チャールズは怒り心頭。私立探偵の家に乗り込んで殴りかかるが、反対に組み伏せられてしまう。そこに夫を追って妻がかけつける。妻は夫が自分を疑って私立探偵に尾行させていたと知って驚き、そのまま行方不明になってしまう。

 やがて市立探偵は植物園で彼女を見つけだす。そして、チャールズのもとに戻るように助言する。「君と一緒にいて、僕は幸福だった。そしてはじめて自分というものを知った。同じ幸せを彼に分かち与えてやってほしい」

「どうすればそれができるの」と問う彼女に、「僕がこの10日間したことと同じ事を彼に体験させるんだ。一言も話をしないで、ただ一緒にいて、同じ物を眺める。そうすれば彼の心がかわり、二人でいることが楽しくなる」

 私立探偵は同じ忠告をチャールズにもする。事務所を10日間もあけて、ただ妻の後を追うことだけをしろと言われて、チャールズはその提案を馬鹿馬鹿しいと思ったが、もはや残された道がそれしかないのを知って、そのことに同意する。そうして、妻を追い始めた夫に、やがて微笑が蘇ってくる。

 トポル演じる私立探偵の軽やかに人生を楽しむ姿がよい。しかし、彼の自由な味のある生き方を、チャールズの散文的な重々しさに対照させながら、必ずしも手放しで賞賛しているわけではない。コメディタッチの楽しい映画のように見えて、人生のありかたをとらえた内容のある映画だと思った。夫婦で観るのにふさわしい映画かもしれない。


橋本裕 |MAILHomePage

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