橋本裕の日記
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論語に「徳は弧ならず。必ず隣あり」(四、里仁)とある。これは志賀直哉の好きな言葉だったようだ。実際に志賀直哉の「徳不弧」という書を見て、感動した記憶がある。
孔子はまた、「徳ある者はかならず言あり。仁ある者は必ず勇あり」(十四 憲問)と言っている。徳者は見て見ぬふりをしたり、仁者は間違ったことに対しては、たとえ相手が権力者でもこれを正面から糺す勇気を持っている。
一方で孔子は弟子の子路に「徳を知る者はすくなし」とも嘆いている。孔子の時代にかぎらず、徳を行う者はいつの時代でもそう多くはなかったのだろう。とくに現代のような苛烈な競争社会に住む私たちは、どうしても自分勝手になりがちである。なまじっか他人のことなど考えていたら、競争に負けて落ちこぼれになりかねない。
しかし、そうした自分勝手な人間ばかりでは社会は成り立たない。そして事実、世の中はそうした利己主義者ばかりで満ちている訳でもない。自分ばかりを高くおいて、「徳は弧なり」などというのは、思い上がった独善であり、徳そのものから一番遠いのではないだろうか。
「私は日々、一匹狼のように暮らしていますが、事実、美と真理と正義を求めてやまない人々が形成する目に見えない共同体の一員であるという自覚があるため、寂しいとは感じません」
このアインシュタインの言葉に共感する。私も組織や集団が嫌いで、そうしたものに容易になじめない一匹狼(子羊?)だが、「美と真理と正義を求めてやまない人々が形成する目に見えない共同体」の存在を信じ、その「一員でありたい」と、いつも願っている。
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