橋本裕の日記
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谷崎潤一郎は「刺青」という小説で、「それはまだ人々が『愚』と云う貴い徳を持っていて、世の中が今のように激しく軋み合わない時分であった」と書いている。
むかし、『愚』が貴い徳として慕われていた時代があった。私も又、この『愚』という徳を慕う気持がつよい。「大愚良寛」「愚禿親鸞」など、私の敬愛する人は何故か愚の徳にたけた人ばかりである。
さかしらな合理性をよしとする現代人に欠けているのは、たしかに「愚という貴い徳」なのかもしれない。といって、自らを愚者と称することができる人物は、おそらくかなりの賢者なのだろう。
自分を愚者と自覚できない愚者になりたくない。しかしそれ以上に恥ずかしいのは、自らを賢者だと自惚れている愚者だろう。
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