橋本裕の日記
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2001年05月22日(火) 税制は戦争の所産

 先日新聞に高額納税者のリストが載っていた。それによると、日本一は41億円余りを納税した大塚製薬の元相談役の大塚正士さんだという。6位、7位も大塚さんである。いずれも11億円あまり納税していて、肩書きは大塚化学の会長、アース製薬の会長とある。大塚一族はベスト100人に計7人を占めているというからなかなかのものだ。

 二位の三木谷さんは、インターネット上に仮想商店街を実現した「楽天」の社長。三位にソフトバンクの孫正義さんがつけている。土地成金ばかりで占められていたバブル最盛期の頃と比べると、上位者はいずれも会社の会長や社長、役員が占めており、健全化したように思う。高額納税者のリストにはその時々の世相が写し出されている。

 ところで、税金には大きく分けて、資産・所有物にかかる「資産税」、支出にかかる「消費財」、そして収入にかかる「所得税」の3つがある。その比率は日本でおよそ2:2:6になっている。この比率をどうするかが、税制改革の目玉だと言っていい。

 今日では税金の王様格の「所得税」だが、その導入はもっとも遅く、世界で最初に「所得税」を導入したイギリスでさえ1799年だった。それまでイギリスは他の国同様、資産税(地租)と消費税(酒税と関税)で財政を賄っていたが、ナポレオン戦争に直面して、戦費調達のために導入したのだという。

 導入に際して、「所得は、国民の消費生活と資産形成の源泉である。所得税は労働意欲を抑制し、経済活動の根幹に害を及ぼし、国力の衰退を招く禁忌である」という反対の声があがった。しかし、戦争の危機を前にして、その声は消され、アメリカ、フランス、カナダ、ドイツ、イタリアが追随し、日本も1887年(明治20年)に導入に踏み切っている。

 さらに日本では1940年(昭和15年)、真珠湾攻撃を翌年に控え、さらなる戦費調達のために、「源泉徴収制度」が創設された。これはサラリーマンから有無を言わせず効率的に税金を搾り取る制度として現在まで用いられている。

 たとえば約5200万人のサラリーマンで納税している人の割合(納税者率)は85・2パーセントにのぼるが、自営業者の納税者率は42・9パーセント、農業は納税者率がわずかに20パーセントとなっている。所得税は、捕捉という点でもこのような大きな欠陥を抱えており、所得がガラス張りのサラリーマンばかりが搾取されているという不平等な現実がある。

 もともと緊急避難的な意味合いで導入された「所得税」が、いまや税収の大きな部分を占めるにいたっている。税制に限らず、危急のためと称して一旦創設された国にとって都合のよい制度は、その後廃止されることはほとんどない。国は戦争が終わってからもどん欲に国民から税金をしぼりとり、ますます贅肉ばかりの巨大な怪物になって人々を苦しめる。


橋本裕 |MAILHomePage

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