橋本裕の日記
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2001年05月30日(水) |
過剰で幼稚な精神主義 |
日本海軍の精神主義をあらわす言葉としてよく引き合いに出されるのが「一艦よく百艦を屠る」という言葉だ。優秀な一艦は凡庸な百艦に勝るという。西部劇のたとえを使えば、命中率100パーセントを誇る射撃の名手は、命中率1パーセントしかない射撃の凡手100人を相手にできるということだろう。
しかし、100人の凡手と対決して、実際にこの名手が倒せる相手は何人だろう。10人、50人、それとも100人? 日本海軍の論理では100人だということになる。なにしろ的中率で考えれば、百人束になって、やっと名手一人分なのだから。
ところが、この名手が倒せる相手はたった一人である。最初の一発で、たしかに名手は相手の一人を倒すだろう。ところがそのとき、百人の凡手の撃った弾丸のうちの一つが彼を倒す。したがって、彼が不死身でない限り、2発目を撃つことは出来ない。
こうしたことは、少し冷静になって考えてみれば分かることであるし、そもそも100倍も優秀な友軍という考え方自体が非現実的である。こうしたおよそ起こり得ぬことを、あたかも可能であるが如く錯覚して、日本は無謀な戦争に突入して行った。
一橋大名誉教授藤原彰さんの研究によると、太平洋戦争中の日本軍人・軍属の死亡者230万人のうち、約6割は栄養失調による病気と飢餓による死亡だという。靖国神社に祭られている軍人たちが名誉の戦死をした英霊だというのは嘘で、多くは無謀な作戦に駆り出されたあと、友軍からも見捨てられ、異郷のジャングルの中で飢えて死んで行った敗残兵である。藤原さんはこうした悲惨を招いた原因のトップに日本軍の「過剰な精神主義」をあげている。
マッカーサーは「日本人は13歳の子供だ」と言ったが、そう言われても仕方がない。子供はいつも自分に都合のよい理屈や願望でものを見る。そして空想を現実と取り違える。ところで、「新しい歴史教科書をつくる会」の人々の精神年齢は何歳くらいだろうか。私の目には彼らもまた過剰で幼稚な精神主義者に見える。
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