橋本裕の日記
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2001年06月09日(土) 私の「心の健康術」

 長年教師をやっていると、ときにはとんでもない生徒に出くわすものだ。私も何度かあぶない目にあった。職員室で生徒に殴られ、シャツをひきちぎられたこともあるし、「お前の家に火をつけていやる」「コンクリート詰めにしてやる」などの暴言を吐かれたこともある。

 反対に、クラス会などで、女生徒から「先生、好き」などと言われて、いきなり頬にキスをされたり、夜の街角で駆け寄ってきた女生徒が私の胸に顔を埋めて、しばらくじっとしていたこともある。衆人環視のなかで、決まりが悪かったが、まんざら悪い気はしなかった。

 若い頃は車でテニス部の女生徒を送っていったとき、別れ際に私の方から少女の肩を抱いてキスをしたこともある。とんでもない破廉恥教師だったわけだ。交際していた女性と、別れ話がもつれて、「今からあなたを殺しに行きます」などと電話で物騒なことを言われたり、勤務先の学校に一日何十回と電話をかけられて事務に苦情をいわれ、学校を転勤させられたこともある。もうはるか昔のことだから、時効と言うことで書いた。

 若い頃は怖いもの知らずで、生徒に殴られたときも、それほどショックは受けなかった。「コンクリート詰めにしてやる」と言われても、女から「死んでもらいます」と言われても、「やるならやってみろ」というくらいの心意気があったが、年をとるとそんな勇猛心はなくなった。

 歳相応の分別がついたせいだろうが、おかげで、中年を迎えた私はこれという大きなトラブルに巻き込まれることはなくなった。外見はいたって平穏無事と言えるが、しかし、内実はそうでもない。

 と言うのも、ごく詰まらないことで、悩んだり落ち込んだりすることが多くなったからだ。ときには眼前のごくささいなことが、とてつもなく大きな障害のように感じられて、自分に無力感を感じ、人生に絶望する。生徒の何気ない一言で傷つき、夜中に眼を覚まして、あれこれ考えているうちに、気がつくと夜があけていたりする。

 こうした「うつ」の状態がながく続くと、厭世的な気分がたちこめて、何事にも積極的になれなくなる。いわゆる「ひきこもり」というのは、こうした気分ではないだろうか。私も「ひきこもり予備軍」の一人かもしれない。

 心理学の解説によると、今話題の「幼児虐待」なども、若い母親の「うつ」が原因のひとつだという。ある調査によると、母親の1割に「うつ状態」が見られ、子供を虐待している母親では、この割合が3割になっているらしい。

「うつ」になると自分が無力で小さく思える。一方、目の前の問題はとても大きく見える。「うつ」になる人はまじめな人が多く、「うつ」のために子育てや家事がうまくいかなくなると、ますます自分を責めて、ストレスがたまる。

 たまったストレスが爆発すると、子供や身近な人々への虐待となる。あるいは、自分自身を虐待し、自損行動を繰り返す。そして、さらに自己嫌悪に陥り、悪循環からさらに「うつ」が昂進する。「幼児虐待」「ひきこもり」「いじめ」「自殺」などの社会現象の背後にはこうした常態化した「うつ」の問題がある。

「うつ」は、現代病といえるほど流行っているが、こうした状態から抜け出す最良の薬は「心の休息」だという。しかし、忙しい現代社会では、なかなか休息をとることがままならない。それになまじっか暇が出来ると、よけいくよくよ考えて「うつ」を悪化させないとも限らない。

 そこで、私の解決法を書いてみよう。それは自分の関心を広く社会に向けることである。今、日本や世界で行われている出来事に目を向けてみる。さらには哲学や文学、歴史、宗教、科学といった壮大な精神の世界に心を遊ばせる。

 そうすることで、心が自己中心の狭い牢獄から解放され、「うつ状態」が軽減される。私にとって、こうしてHPにあれこれ駄文を書いて、社会問題や人生を好き勝手に論じることが、もっとも効果的なストレス発散法であり、「うつ撃退術」になっているようだ。


橋本裕 |MAILHomePage

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