橋本裕の日記
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2001年06月22日(金) 金子みすヾの詩(9)

 みすヾはその短い一生を生まれ故郷の仙崎や下関界隈で過ごした。しかし、それでいて彼女の詩にはとてつもない宇宙的な広がりが感じられる。彼女が花を歌うとき、それはただの花ではなく、虫も又ただの虫ではなく、神々の息吹を宿した敬虔な存在となる。微少なものに宿る永遠の命を、その不思議なやさしさやさびしさを、彼女はいつも身近に、神秘的に感じていたのだろう。

   不思議

   私は不思議でたまらない、
   黒い雲からふる雨が、
   銀にひかつてゐることが。

   私は不思議でたまらない、
   青い桑の葉食べてゐる、
   蠶が白くなることが。

   私は不思議でたまらない、
   たれもいぢらぬ夕顔が、
   ひとりでぱらりと開くのが。

   私は不思議でたまらない、
   誰にきいても笑つてて、
   あたりまへだ、といふことが。

 脚本家の早坂暁さんが、金子みすヾについて、「彼女の視点は人間中心のものじゃない。ある時は雪になったり、ある時は鳥になって、ものを考える・・・だれにでもわかる易しい言葉で物の本質を言ってのけるのは難しいが、みすヾさんはそれが出来た人。本質がわからない人たちは、すぐ難しい言葉でごまかすから」と語っている。


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